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最後の帰りの会
「これでラストだ……グスッ、じゅっ、じゅっぜぎばんごゔ二十番、渡辺(わたなべ)!」
「先生、『わたべ』です……」
『渡辺君』は最後くらいは間違えないでよ…という苛つきの表情をしていた。
「いいや、お前は『わたなべ』だ!学校会議で決まったことなんだ!受け入れろ!」
「チッ」
『渡辺君』の舌打ちが聞こえた瞬間、クラスメイト全員顔を伏せがちになっていた。
(ずっと『わたなべ』だと思っていた……)
「渡辺、お前、高一の時の『あの事』を覚えてるか?」
「『あの事』って?」
「先生が授業終わりに黒板の文字を消した時、お前なんて言ったよ?」
『渡辺君』は手を頭に当て必死に思い出していたが、中々思い出せない。すると教師寺田は顎を突き出し目を見開いて、生徒達が数日かけて制作した黒板アートを消してこう書いた。
《ちょっと!まだノートに写し終えてないんですけど!》
最後にチョークが粉々になる程、黒板に叩きつけた。
「これ以来、先生はお前の事が嫌いになりました!終わり」
「………」
『渡辺君』は先生にされた数々のエピソードを思い出していた。書道の時間で本書の際にワザと机を蹴られたり、やたらと習ってない問題の解答を黒板に書かせたり、プリントを教壇まで取らせに来させたり……
「そんな……理不尽な……」
一部を除き、高校生活の思い出が涙で滲んでいく。そして、最後に教師寺田はこう言って教室を後にした。
「あースッキリした!意外と隠し事をするって疲れるんだぞぅ?そうそう、俺、今日をもって教師を『クビ』と言う形で卒業する事になったから!じゃあお前ら、達者でな!」
数分間の沈黙が続いた後、ポツリポツリと生徒は教室を後にした。
教室には天野だけ、いつまでもいつまでも立ち尽くしていた。
〜終わり〜
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