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三限目
「はい、出席番号九番、木下」
『木下君』。大人しくて誰に対しても優しい。だからこそクラスメイトは不安で不安でたまらなかった。
「木下ぁ。お前の家に家庭訪問しに行った時、親父さんと話したんだけど、酒の趣味もギャンブル好きも俺と気が合って、案外気に入ってたんだぜ?」
本人の事ではないが、貶すどころか褒め言葉に一同ほっとしたのも束の間、『木下君』が手を挙げて
「先生」
と言ったのだ。年に二、三回あるかないかの『木下君』の発言に、皆息を呑んだ。
「あれはお父さんじゃなくておじさんです」
教師寺田も事情を察したのか
「あぁ……えーっと…なんだ……複雑なんだな、お前の家」
「いえ、よく間違われますから。慣れてます」
「そうか……」
この時だけは教師寺田は罰の悪そうな顔をしていた。
「気を取り直して、出席番号十番、戸郷」
「はい!」
『戸郷君』は図書委員長として真面目に責務を全うした。
「本を燃やせ……」
彼の口癖だった。このことは学校が小さいからであろう、皆が知る所である。しかし、教師寺田は見逃さなかった。
「戸郷、お前、図書室の図鑑シリーズの裏にTol●veる全巻隠していただろ」
再び教室がざわつき始める。
(やっぱり、図書室のティッシュの消費量が多いって噂は……)
「先生はな、こういう事は嫌いじゃない。嫌いじゃないんだ。俺も読んでたし。ただ、お前は致命的な『ミス』を犯した」
『戸郷君』は前のめりになって
「何がいけなかったのでしょうか!?」
食い入るような目で教師寺田を見た。教師寺田は一息ついてこう言った。
「ダークネス編が保管されていなかった!!」
『戸郷君』は雷にでも打たれたかのようにヘロヘロっと席に座り、机に臥した。
「金が……予算が降りなかったんだ!ちくしょう……ちくしょう…」
(気持ちは分かるが、個人的に買えよ……いや、『戸郷君』、学校の予算で買ってんじゃねーよ)
誰しもが思ったが、とてもじゃないが口に出せる雰囲気ではなかった。
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