人喰い神獣2

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人喰い神獣2

「よーし! ついたぞー」  家に着き両親の後に車を降りた私は誰よりも先に玄関へと走り出した。  いつも通り玄関に鍵は掛かってなくてガラガラとドアが開く。祖母が言うにはこんな小さな島に泥棒はいないから大丈夫だとか。だけど私は祖父母の家というのはどこもそうなんだと勝手に思い込んでいた。  ドアを開け玄関に入るとまず大きく息を吸う。祖父母の家の匂いが肺一杯に満たされると今年も来たんだなと実感できる。私はその瞬間がたまらなく好きだった。畳や柱などに長い年月をかけて染み込んだあの独特の匂いは子どもながらにどこか落ち着き安心する。  深呼吸をして今年も祖父母の家に来たんだと感じた私はサンダルを脱ぐために玄関へ腰を下ろした。  そして私がサンダルを脱ぎ終える頃には、玄関へやって来ていた両親も靴を脱ぎほぼ同時に家へと上がった。だが上がってすぐに走り出した私は再び両親に差をつけて奥の部屋へ。襖を開けると何もない畳の部屋が眼前には広がった。何もないただの畳部屋。  だけど私にとっては毎年寝泊まりする懐かしさと馴染みの詰まった部屋だった。 「入り口で立ち止まってないで早く入りなさい」  後ろから母に軽く背中を押されながら部屋に入るとリュックを背負ったまま障子を開ける。縁側を挟んだ向こう側に広がる裏庭は家で見ることはないからかいつ見てもテンションが上がる。 「乃蒼。リュックぐらい下ろしたら?」 「はーい」  母に言われリュックとポーチを荷物がまとめられた所に下ろす。 「にしてもいい天気だなぁ」  私が開けっぱなしにした障子から縁側に出た父はガラス戸を開け蒼穹を見上げながらそう呟いた。  そんな父の隣に並んだ私も父を真似るように空を見上げる。色々な青の中でも一、二位を争う程に綺麗な青色の空には美味しそうな雲がいくつも浮いていた。いつも見るのと同じはずなのにここから見る空は何故か一段と綺麗に見えるのはなぜだろうか? その疑問の答えは今でも分からない。 「よし! 海でも行くか」  頭上に疑問符を浮かべながら空を見上げていた私だったが、父のその言葉に関心は一気に別の青へと持っていかれた。
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