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過去12
「神主さんにバレたら絶対にダメだからね」
「分かった」
階段中腹、小声で注意をしながら鳥居辺りを警戒すると私はいつも通り横へと抜けた。
そして道も無い木々の間を慣れた足取りで進んでいると、男が私の肩を軽く叩いた。それに足を止め振り返る。
「思ったより結構険しい道なんだね」
「大丈夫。もう少しだよ」
「そうだ。はぐれないようにいいかな?」
男は言葉と共に手を差し出した。私はしょうがないなという気持でその手を握ってあげた。
「ありがとう」
そのお礼を聞きながら今の自分がどこか大人びた気がしていつの間にか口元が緩んでいた。
それから私はより軽くなった足取りで洞窟へと進んだ。男にも言った通り洞窟へはすぐに到着。
だがそこはいつもと違いしんと静まり返っていた。まるで誰もいないみたいに。
私は男の手から離れると真っ暗な洞窟を覗き込みながら大きく真口様の名前を呼んだ。呼び慣れたという程その名前を口にした訳ではないが割と気に入っていたその名を。
「真君ー!」
だけど反響し奥へと消えていった私の声の後に広がったのは目の前の暗闇と同質の無音。
「いないのかな?」
一人呟きながら私は頻りに暗闇を覗き込むが、人間の目ではその奥を見通す事は不可能。そして全く出てくる気配のない洞窟から男へ視線を向けた私は真っ先に弁解をした。
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