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過去14
「もしかして僕、何か気に障る事でも言っちゃった?」
確かに少し疲労のようなものは伺えたが、あの素っ気ない態度は私に対しても同じだから気にすることは無いだろう。むしろ私より良い方なのかもしれない(なにせこっち最初なんて喰うぞと言われたのだから)。
だから私は肩を竦めながら正直に答えてあげた。
「分かんない」
私の返事を聞いた寿々木さんはもう一度だけ視線を洞窟の奥へ。
そしてすぐに私へ戻した。
「兎に角今はそっとしておいた方が良さそうだね」
その考えには私も賛成だった。この日の真口様は少しいつもと違ったように感じたから。
「そうだ。折角だからこの森を見て回りたいな。よかったら案内してくれる? えーっとそういえば君の名前聞いてなかったね」
「乃蒼! 鳴海乃蒼! いいよ案内してあげる」
「良い名前だね。それじゃあ案内よろしくお願いいたします。乃蒼ちゃん」
「任せて!」
頼られてすっかりいい気になった私はやる気満々だった。だけど実際は私自身、真口様の背中に乗せてもらい森を駆けただけだからそこまで詳しくないのに。
でもそんな知識とは裏腹に自信に満ちた一歩を踏み出した私は森へと進んだ。とは言え一度は真口様と通った道(正確には道などないが)だからか意外にも歩いている内に(最初の時に休憩した)川へと辿り着いた。全くの偶然ではあるもののさもここを目指していたかのように振る舞う私はズルいだろうか?
「ほら。ここの川、冷たくて綺麗なんだよ」
「木々に囲まれた川。僕が昔いた場所の近くにも川があってそのせせらぎを聞くのが好きだったんだよ」
寿々木さんはそういいながら川へ一歩二歩と足を進めた。
そしてすぐ傍でしゃがみ込むと片手で水を掬い上げた。手から零れ落ちる木漏れ日を反射した雫はさながら宝石。それを彼は子どものように輝いた瞳で見つめていた。まるで初めて目にするかのように。その眼差しの先で手中の水が全て零れ落ちるとまだ滴る手と共に立ち上がった。
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