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過去15
そして次は両腕を大きく広げ肺を新鮮な空気で満たし始めた。吸って、吐いてを何度か繰り返し。深呼吸をしていた。
「この感じ……。懐かしいね」
それからも私は半ば未開の地を探検する気持ちで寿々木さんと森の中を歩いていた。――つもりだった。
「あっ! 見てあそこに綺麗な――」
足を止め指を差しながら振り返ってみると、後ろにいるはずの寿々木さんの姿が消えてしまっていた。木々の囁きひとつ、鳥や虫の鳴き声ひとつしない不気味な程に森閑とした森だけがそこに広がっていたのだ。
「あれっ?」
辺りを見回し見るがやはり人影ひとつ見当たらない。
「もう。ちゃんとついてきてって言ったのに」
森閑とした森で一人ぼっちという状況なのにも関わらず不思議と怖さはなくむしろ安心感さえあった私は、迷子になったというより迷子を捜す側の気持ちになっていた。
全くしょうがないな、なんて溜息交じりに心のどこかでは思っていたのかもしれない。というよりむしろそう思っている自分が大人になったように感じご機嫌になっていたのかも。とはいえこの森の中で人を探すのは、例え森を熟知していたとしても困難なはず。ましてや全然知らない私一人となればもはや不可能と言っても過言ではなない。
さて、一体どうしたものか。そう考えていると私はあることに気が付いた。
「あれ? ここどこ?」
私は自分が今、森のどこにいるのか、洞窟からどれくらい離れた位置にいるのか検討すらつかなかった。でも元々適当に進んでいたのだ。それもなるべくしてなったことなのかもしれない。
今度はさっきとは別の目的で辺りを見回してみるが、どこを見ても木々が並ぶ同じ景色。一体どこへ向けて歩き出せばいいのかすら分からない。だから私はとりあえずここまでと同じように直感と言う名のコンパスに従い足を踏み出した。
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