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過去18
「それはそうとはぐれちゃってごめんね。あまりにも綺麗な蝶がいたものだからつい、ね」
「もう。ちゃんとついて来ないとダメなんだよ」
「ごめんごめん。でも君を探している間に随分とこの森を見て回れたよ。改めていい森だった。でも僕はそろそろ時間がなくてね」
「もう帰っちゃうの?」
「今日はここまでかな。ごめんね」
「うん。でも……」
私は木しかない辺りをぐるりと見回した。寿々木さんと合流できたのはいいが未だに私は自分がどこにいるのかが分からないのは変わらない。
そんな私の心配を感じ取ったのか、寿々木は安心させるような笑みを浮かべた。
「大丈夫。僕は記憶力は良い方なんだ。ついて来て」
「うん」
よく考えれば寿々木さんは太った男に対して森の出られる方を教えていたから、この時の私は彼と合流できた時点でどこにいるか分からない事を心配する必要がなくなっていたのかもしれない。
そして最初とは打って変わって寿々木さんの後に続き暫く歩いて行くと私は見慣れた洞窟の前まで戻ってくることができた。
「それじゃあ僕は行くけど君も下まで一緒に行く?」
「ううん。私はここでいい」
「ならここでお別れだね。じゃあまた会えるといいね」
「うん。また遊ぼうね」
こうして私は寿々木さんと手を振ってお別れをした。彼はここへ来た時と同じ方へ歩き出し、私は洞窟へと足を進めた。
最初の方はいつも通り真っ暗で奥に進むと壁の灯りが点火。最初の時と同じように真口様はそこで眠っていた。地面に寝そべり穏やかな呼吸に体を揺らしている。いつもと同じ。
だけどやっぱりどこか疲れているような感じがして仕方ない。根拠もないし何故かと訊かれれば答えられないけど。私はそう感じていた。
そんな不安を抱えながら真口様の元まで歩みを進めると腰を下ろし背中を凭れさせた。心地好いクッションのように私の背中を受け止める真口様の体。家のソファが物足りなくなりそうだ。
「アレはどうした?」
すると前足に乗せた顔を少し私へ向けた真口様がそう訊いてきた。でも私にはアレが何なのか分からなかった。
「アレ?」
「さっきのだ」
そう言われ頭に浮かんだのは寿々木さん。
「あのお兄ちゃんのこと? 帰ったよ。用事があるんだって」
「そうか」
訊いてきたのは真口様だがその返事は興味なさげに素っ気なかった。だが洞窟内に消えていく小さなその声は私の不安感を煽るように震わせた。
「ねぇ。大丈夫?」
「問題ない」
そう言いながら真口様は前足の上に顔を乗せた。
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