『わたしの恋に引導を。』

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「あ、ありがとう。野上く──」 「野上先輩、ありがとうございます! でも、あんまりあゆ美先輩には──」  カッターを受け取ろうと右手を差し出し掛けたわたしの前に、倉掛さんが小さな身体で進み出た。まるで彼からわたしを庇うみたいに。 「ちょ、ノッコ! 何言ってんの! ……野上先輩、この子ちょっと舞い上がってるんですよ」 「そうなんです、すみません。もう屋敷先輩しか目に入ってなくて」  野上くんに向かって好戦的な態度を隠さない倉掛さんに、お友達の方が二人して慌てて止めに入って代わりに謝ってるわ。 「いやいや、気にしてないよ。……じゃあ君から」  そう笑いながら、野上くんは倉掛さんがおずおずと出した掌にカッターナイフをそっと落とす。 「屋敷、それやるから。でももし気ぃ遣うんなら、また怜那(れいな)に会った時に渡しといて」 「そうする。野上くん、どうもありがとう」  彼が去った後、わたしはカッターの刃でジャケットの生地を切らないように注意しながらボタンを外した。
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