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◇ ◇ ◇
「康之先生、あの。──少し、お話させていただけませんか?」
高橋姓の先生が校内に複数いらっしゃるから、基本的に下の名前で呼ぶケースが多いのよね。特に康之先生は、最初の授業で必ず名前で呼んでいいからって言ってくれるの。
中庭での歓談タイムも、しばらく前に終わりを迎えてた。
康之先生が受け持っていたクラスの生徒がもうこの場には残っていないのを確かめて、わたしは勇気を振り絞るようにして彼に声を掛ける。
「……構わないよ。今?」
担任したこともないわたしの用件なんて、先生には予想もつかないわよね。康之先生は微かに不思議そうな表情で、それでも優しく承諾してくれた。
「あ、もし先生がよろしければ。ご都合が悪ければ仰ってください」
付け加えたわたしの言葉に、先生は笑みを浮かべて答える。
「職員室にちょっと顔だけ出さないといけないんだ。そんなに時間は掛からないと思うから、その間だけ待っててくれるかな」
「はい。もちろんです」
軽く片手を上げて、急ぎ足で校舎に戻って行く康之先生を見送りながら、わたしは大きく息を吐いた。思ったより緊張してるみたい。
……当然よね。
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