◆4 実可:オフィス

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「さあ、次に行きますよ」 のっぺらぼうがそう言う。 実可はもっと見ていたかった。 しかし腕を掴まれかなり強引に引っ張られたので、歩き出すしかない。 自分でない自分。あるいは、そうであったかもしれない自分。 それを見るのが、こんなに惹きつけられるものだとは知らなかった。 また黒い霧が身体の周りにたちこめ、視界が閉ざされる。 手を引かれる感触だけを頼りに進むうち、誰かがひそひそと囁き合っている声が聞こえて来た。 「……るせさんでしょ」 「ああ、わかるわかる」 聞き覚えがある。 と思うと、霧が消えた。 今見えているのは、勤め先の休憩スペースだった。 男女の2人組が、コーヒーの入ったマグカップ片手に、ほくそ笑みながら話している。人の噂をあることないこと、会社全体に拡散させると評判の2人組だ。 しかも当の本人たちはそれが善意と疑わないので、なかなか始末に負えなかった。 「弦瀬さんみたいな地味な女でも、彼氏ってできるんだ」 「それがけっこうイケメンらしいよ」 「マジ?話盛ってんじゃないの」 「いやそれが、営業の橋本さんが偶然一緒にいるの見かけたらしいけど、かなりイケてたらしい」 この噂話、記憶にある。
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