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実可は思い出し、休憩室のちょうど裏側の位置にあるプリンタ室に意識をやった。
すると、ぐるり、と視界が回り、今度はそこにいる自分の姿が見えるようになった。
プレゼン用資料のフォルダを手に、立ちすくんでいる。
実はこの部屋と休憩室は、空調ダクトが繋がっている関係か、お互いの話が筒抜けなのだ。
「あーあ。あたしなんか、調達部の門倉よ。目の保養にもなりゃしない」
「なんであんな不細工にしたんだよ。早く次見つけたら」
そのやり取りに、コピー室の実可の口角がわずかに上がる。
このとき思ったことを、今でも覚えている。
−−あたしの彼氏のほうが、何万倍もかっこいい。
今見ると、そんなことでマウントを取ったつもりになっている自分がバカみたいだ。
門倉とは何度か一緒のチームで働いたことがある。
実直で、仕事に情熱を傾けている好青年だった。女性に対しても終始丁寧で、きっと彼女を大切にしているだろう。
外交官になれなかったことがコンプレックスで、いつもグチグチと同僚をこき下ろしている吉池とは大違いだった。
本当はこの頃から、心の底では分かっていたのだ。
吉池のような男から離れられない自分の不甲斐なさを。
でもそれを、表面的な魅力を評価することで、ごまかしていた。
「さて。これも買取しますか?」
またいつのまにか、隣に望一がいる。
「マウント取ってるあたしの、皮?」
「まあそんなところですかね」
そう答えると、実可の頷きを確認し、例の帳面に書き込む。
渡された書面を見て、実可は苦笑いを浮かべた。
『自分の選択の自信の無さを、彼氏の容姿で補えると思っている女』。
なかなか容赦ない。
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