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そして突然、時間が飛んだ。
次に見えたのは。
部室での気まずい遭遇から数日後、町戸だけを呼び出し、別れ話を切り出した古臭い喫茶店の情景だった。
学生当時実可が住んでいた安アパート近くの寂れた商店街に、ひっそりと人目を忍ぶようにあった店だ。
1人取り残され、冷めたコーヒーを啜っている大学生の実可。
渡していたアパートの合鍵を返してもらったのが、そのままテーブルの上に載っている。
別れ話は終わった後だろう。
「ずいぶん、物分かりが良かったんですね」
「まあね。それがあたしの賢いところだと思ってた。この頃は」
「今は?」
「別れる、って結果は変わらないと思う。心が離れちゃったものはどうしようもない。でも、傷ついてないフリをするのは、どうかな。吉池への対処方法が今なってないの、この時が原因だったのかも」
説明しながら、そんな感想が持てるようになっているのが自分でも意外だった。
「では、皮は」
「お願いします」
即答だった。
実可はすでに、化けの皮を取った自分がどんな態度に変化するのか、期待するまでになっていた。
今回、望一が書き込んだのは。
『周りの評価を気にして一過性の悪口も言えない、賢いふりをした女』。
ほお、と思ったとたんだった。
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