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実可には、ずっと付き合っている吉池丈司という男がいた。
数合わせに呼ばれた合コンで知り合った外務省職員。流行りの俳優によく似ていると言われるような整った顔立ちで、スタイルもいい。
以前は外交官を目指していたというのも納得できるような、人当たりの柔らかさと頭の回転の速さがひどく魅力的だった。
だから、その日意気投合してからすぐに”お持ち帰り”された実可は、有頂天だった。他の女性陣の目も、吉池に集中していたのを知っていたからだ。
もっとも”お持ち帰り”とは言っても、帰ったのは相手の家ではなく実可の1人暮らしのマンションだったが。
そこからの付き合いだった。
もう、3年近くになる。
はじめはあんなに夢見心地だったのに、その感覚が今ではもう思い出せなくなってしまった。
会うのはいつも、実可の部屋かラブホテル。仕事が忙しいからと、デートもろくに行かなくなった。
丈司のマンションに行きたいというと、散らかっているから嫌だという。
じゃあ片づけてあげると申し出ても、悪いからと返される。
それが体のいい言い訳なのだと、薄々気づいていた。
持ち物や匂いにいつも他の女の気配を感じ、それに怯えるようになった。
”都合のいい女”。
そんな言葉が頭をよぎっても、気づかないふりを続けていた。
そうやっていつしか関係に疲れ、でも会えばやはり身体を重ねてしまう。そんな自分が嫌だった。
いや。
嫌だということに、突然気づいた。
彩香の幸せそうな姿が、気づかせてくれた。
そしてかなりの期間逡巡したあと、とうとう店を訪ねてみることに決めたのだ。
信じるには、あまりにもおかしな商売の店。
彩香のふざけたホラ話であって欲しいとも、どこかで思っていたような気もする。
でも、店は実在した。
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