◆2 実可:バー

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実可には、ずっと付き合っている吉池丈司(じょうじ)という男がいた。 数合わせに呼ばれた合コンで知り合った外務省職員。流行りの俳優によく似ていると言われるような整った顔立ちで、スタイルもいい。 以前は外交官を目指していたというのも納得できるような、人当たりの柔らかさと頭の回転の速さがひどく魅力的だった。 だから、その日意気投合してからすぐに”お持ち帰り”された実可は、有頂天だった。他の女性陣の目も、吉池に集中していたのを知っていたからだ。 もっとも”お持ち帰り”とは言っても、帰ったのは相手の家ではなく実可の1人暮らしのマンションだったが。 そこからの付き合いだった。 もう、3年近くになる。 はじめはあんなに夢見心地だったのに、その感覚が今ではもう思い出せなくなってしまった。 会うのはいつも、実可の部屋かラブホテル。仕事が忙しいからと、デートもろくに行かなくなった。 丈司のマンションに行きたいというと、散らかっているから嫌だという。 じゃあ片づけてあげると申し出ても、悪いからと返される。 それが体のいい言い訳なのだと、薄々気づいていた。 持ち物や匂いにいつも他の女の気配を感じ、それに怯えるようになった。 ”都合のいい女”。 そんな言葉が頭をよぎっても、気づかないふりを続けていた。 そうやっていつしか関係に疲れ、でも会えばやはり身体を重ねてしまう。そんな自分が嫌だった。 いや。 嫌だということに、突然気づいた。 彩香の幸せそうな姿が、気づかせてくれた。 そしてかなりの期間逡巡したあと、とうとう店を訪ねてみることに決めたのだ。 信じるには、あまりにもおかしな商売の店。 彩香のふざけたホラ話であって欲しいとも、どこかで思っていたような気もする。 でも、店は実在した。
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