1

7/9
前へ
/26ページ
次へ
「あ、私そろそろ帰るね?」 わざとらしく、腕時計を見る。 時刻は21時を過ぎた頃で。 クラス全員が揃い、場が盛り上がって来た頃。 「え、花純帰るの?」 そう言う京花に。 「ああ。清太が待っているもんな」 その志田君の言葉に、曖昧に頷く。 それを肯定だと捉えて貰えるように。 京花と志田君と、同じ輪に数名居た級友達に、お先に、と告げると。 私は店を出た。 店は半地下になっていて、階段を上り地上に出ると。 結城先生の姿を探し、走る。 JRじゃなく、地下鉄かな? そう思い、その二つの道の分岐点で立ちすくむ。 そうしていると、 背後から足音がした。 振り返ると、そこには結城先生が立っている。 「やっぱり、お前は俺の事を追い掛けて来ると思っていた」 その結城先生の言葉に、え、なんで、と戸惑う。 「お前が昔、ずっと俺の事を見てたの、知ってた」 どれだけ見つめても、この人と視線が絡み合う事はなかったけど。 そうやって、知っていたんだ。 「結城先生…私…」 一体、私は何を言おうとしているのだろうか? 今さら、告白? いや、今さらだから言えるのかもしれない。 私もこの人も、結婚しているのに。 「先生が好きです」 そう告げると、結城先生はその目を細めた。 「だろうな」 そして、小さく笑う。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

251人が本棚に入れています
本棚に追加