ある小学校での話

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 約束の土曜日になった。  私は憂鬱ながらも律儀に卒業旅行の荷物を準備していた。  もうすぐ集合の時間なのに私は玄関の靴を履けないでいた。  今さらになって怖じ気づいたのだ。  だって、幽霊が怖い。いくら友達の誘いでも自分がどうしても苦手のものまでつきあう必要ってあるの?  それと同時に荷物が詰められたリュックサックを見つめる。  三人のことは大好きだ。  卒業式を終えたら学校で会うこともない。中学はみんなとバラバラだ。  だから今日の卒業旅行は実質四人で遊べる最後の日。  それでも私はどうしても観覧車のことが嫌で玄関を飛び出せない。  約束の時刻が過ぎた。  バス停では三人がまだ来ない私を怒ってるかもしれない。遅い私に文句を言いつつも待ってくれているかもしれない。  いっそ来ない私を気にもかけず三人でバスに乗っておいていってほしいとすら思った。  さらに三十分が経過。  私が膝を抱え顔を埋めているとインターホンが鳴った。  ドアを開けると肩を上下に荒い呼吸をするマーちゃん一人が立っていた。 「あんたどういうつもり?」  友達の追及に私はうつむく。 「ナナもカオリもまだバス停で待ってる。今のバスはもう行っちゃったから次来るバスに乗ろう。行くよ」  マーちゃんは私の答えも聞かずに手を引っ張った。でも私は留まる足に力を入れる。 「なんで? 卒業旅行なんだよ。四人で一緒に遊べる最後のチャンスなんだよ。中学生になったら四人で集まることも簡単じゃなくなっちゃうんだよ」 「でも……観覧車乗るんでしょ。私怖いの嫌いってマーちゃんも知ってるじゃん」 「だってミサ以外は楽しみにしてるし。それくらい合わせてよ。ミサの乗りたいアトラクションも一緒に乗るからさ」  どうしても自分の意見を受け入れてくれない友達に私はカチンときた。 「無理なものは無理。私以外の三人で乗ればいいじゃん」 「やだ。四人で一緒に乗るの。誰かが欠けてるのなんて絶対嫌だ!」 「いつでもなんでも一緒にいるのが友達なの!?」 「いつもずっと四人でいたじゃん! なんでわかってくれないの!?」 「そんなのこだわってバカみたい! そんなのただの金魚の糞だよ!!」  私は握られた手を振り払った。  振りほどかれた手を一目見るとマーちゃんは私を見つめ、 「わかった。じゃあ、もういい」  そう言うとマーちゃんは玄関から出ていった。
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