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遊園地・フェアリーランドの噂
ねえ知ってる?
フェアリーランドの噂。そう、今私たちが来てるこの遊園地。
なんとこの遊園地幽霊が出るんだって!
なんでもフェアリーランドに向かう途中で交通事故で死んじゃった子供たちがいたらしくて、その子たちが未練を持って魂のままこの遊園地へ遊びに来るみたい。
ちなみにその子たち観覧車を一番楽しみにしてたらしくて、4時44分になると乗車しに来るの。
「なにそれ怖ーい」
きゃはは、と三人の女の子がそんな話をしながら観覧車乗り場へ歩いてきた。
ブレザーの制服を着ていることからおそらく女子高生だと推測する。三人とも綺麗に化粧をしているためその顔は実際の年よりも数段大人びて見える。
「お足元お気をつけください」
フェアリーランドの従業員である克己咲歩は観覧車乗り場を訪れる女子高生の三人組に呼びかけると観覧車のドアを開けた。
女子高生はかしましく笑いながら、
「うわーこの観覧車ボロっ。ドアとか錆びてるじゃん。てかこの遊園地全体的に古めかしすぎ」
「贅沢言わないの。県内に遊園地あるだけマシじゃん。県内唯一のテーマパークよ」
「でもさ、そろそろリニューアルする予定とかあるかもよ」
そのへんどうなのお姉さん?
「え」
急に話題をふられたことで咲歩は身体を硬直させた。
「ああ、そうですね、えっと」
上手く言葉が出ない。しどろもどろになる咲歩を見ると女子高生たちはまあいいや、と咲歩の返答を待たずドアの開いた観覧車へ入っていく。
少しほっとする。
三人が椅子に座ったことを確認しドアをロックしようとすると、
「てかさ、あの従業員のお姉さんこそ幽霊じゃない?」
「ね、ぼんやりしてて存在感薄いし」
「冴えないよね」
そんな会話の漏れを閉じ込めるように咲歩はそっとドアを閉めた。
まだ近くにいる本人に聞こえていることに気づかないのか。いや、この子たちぐらいの年齢の子はいちいちそんなことを気にしないか。
かしましい三人娘を乗せたゴンドラは上へ上へと上っていくのを見つめる。
見届けると同時に咲歩は小さくため息を吐いた。
乗り場にいる者は自分だけなので誰も咲歩のため息を咎める者はいない。
二十四歳。
成人になって数年経つのに女子高生にナメられる。落ち込む。
「幽霊ね」
咲歩は先程の三人娘の話を思いだす。
咲歩は左腕に着けた腕時計の時刻を見た。
「4時43分……」
例の時刻まで、あと1分。
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