幼女が探す迷い猫

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
     ピンポーン、とインターホンが鳴ったのは、帰宅の直後。エアコンのスイッチは入れたものの、まだ部屋が十分に温まる前だった。 「いったい誰だろう? こんな時間に……」  友人は少ないし、もちろん来客の予定もない。だからといって無視することも出来ず、玄関を開けると……。  そこに立っていたのは、先ほどの幼女だった。 「どこ? にゃんにゃーは今、どこにいるの!?」  噛み付くような勢いで叫び出し、勝手に家に上がり込んでくる。  私は止めようとしたが、彼女は器用な身のこなしですり抜けた。 「にゃんにゃー! にゃんにゃー!」  チラシにあった迷い猫の名前を、幼女は連呼する。  私だけがチラシを受け取ってあげたから、家までついて来てしまったのだろうか。だとしたら、なんだか恩を(あだ)で返されたような気分だ。 「そんな猫、ここにはいない! 早く出ていきたまえ!」  大人として、きちんと叱ってみたのだが……。  振り返った彼女は、私の言葉を聞き入れるどころか、恐ろしい形相を浮かべていた。 「嘘! おじさん、にゃんにゃー知ってるでしょ? だって、私のこと見えたんだから!」  幼女が私の首に手をかける。  ゾッとした。人の手の感触ではなかったのだ。  まるで冷たい空気を押し当てられているかのような、掴みどころのない感覚だった。  それでいて、全く振り(ほど)けない。強い風の中で身動きが取れないみたいに、体の自由が奪われていた。  しかも、さらに不思議な出来事も発生する。体が触れたことにより、魂まで繋がったというのだろうか。彼女の記憶が流れ込んで来たのだ!    
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!