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わかったふうに部屋を出たけど、行くあてなどなかった。 どうやってキヨを探したらいいんだろう。 自然と足は土間に向かう。 廊下では、女中が忙しそうに徳利を運んでいる。 広間からは宴会のにぎやかな声が聞こえていた。 土間まできて草履をはいていると、通りすがりにヒソヒソ話す女中たちの声が聞こえてきた。 「奥様の耳に入ったら、キヨ様、もうここにはいられへんやろうなあ」 「でも、その方が幸せかもね」 「言えてる。ここじゃ、肩身が狭いもんねえ」 女中たちは、パタパタと仕事に戻っていく。 「私は、ここに来るべきではなかったのです」とうつむいたキヨの姿を思い出す。 「あの子は、いっつもオドオドして。自分から何かしようっていう気持ちがない」 優子はそう言ったけど、毎日が肩身狭く、満足に息すら吸えなくなってる人間は、自分から行動をおこせるわけがない。 学校で、どんどん落ちこぼれていった私には、その気持ちがよくわかる。 救いの手を素直にうけとれず、卑屈になって、グズグズと流れにのまれていく。 そして、そんなときに「これじゃだめだ」とヤケになって起こす行動は、きっと空回りをする。 キヨは、かんざしを盗んでどうするつもりんだろう。 そんなことをして、何かが変わると思ったのだろうか。 土間から出て、外を探した。 作業場をのぞき、裏山に続く道を横に見ながら、ぐるりと離れの建物を回った。 低木が整然と並ぶ庭にでた。 離れのガラス戸越しに、ずらりと並んだ障子が見えた。 そういえば、このあたりの記憶は全然ない。 あの血まみれの池はいったいどこにあったのだろう。 あれは、ひいおばあちゃんの家のことではなかったのか。 でも、弔問客は、あの家での出来事として話していた。 抜け落ちた記憶と戻ろとしている記憶の協会があやふやで、くらくらする。 太陽はもう西に傾いて、夕暮れがやってくる。 ひいおばあちゃんのお通夜は何時からだったっけ。 私がいない現代で、お通夜はもう始まっているのだろうか。 急に心細くなる。 私は、現代に戻れるんだろうか。 父や母は私を探しているだろうか。 学校の話をしなくなり、どんどんうつむいていく私を、父も母もどう思っていたのだろう。 見るも無残な成績を見ても、二人とも決して叱ったりはしなかった。 帰りたい。 涙で景色がぼやけた。 ガラス越しに優子の部屋も見えた。 障子は開け放たれ、だれもいない部屋に鏡台と文机がひっそりと並んでいる。 ぼんやりと眺めていたら、奥の押入れが開いた。 私と優子が抜け道に使った押入れ。 えっ? あわてて目をこする。 中から、キヨがさぐるように顔を出した。 「キヨさん!」 思わす叫ぶ。 キヨがはっと顔をあげた。 目が合うと、顔をひきつらせ、あわてて押入れの扉を閉めた。
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