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お城の入り口みたいな立派な石作りの門をくぐると、その先はずっと石畳の回廊になっていた。手入れの行きとどいた庭木が整然と客人を迎える。
ゾクリとして、立ち止まる。
ここ、知ってる。来たことがある。
玄関までの回廊はゆるやかにカーブし、その先はここから見えない。
だけど、私にはわかる。
石畳の先には、どっしりとした開き戸の扉。
はりだした瓦作りの雨除けは、二本の丸太みたいな太い柱に支えられ、扉の横には、大きな陶器の傘立てが置いてある。
そのそばに、子ども用の自転車やボール、バドミントンのラケットなどが無造作に置かれていた。
既視感、なんてものじゃない。
もっと生々しいリアルな記憶。ただ、ゾワゾワと嫌な気持ちがまとわりつく。
「ナナミ、大丈夫?」
後ろを歩く母の手が、背中に触れる。その手のぬくもりに、ホッとする。
「私、ここに来たことある……」
私がつぶやくと、母はぎこちなく笑った。
「そうよ。昨日そう言ったじゃない。小さい頃はよく来てたんだから。見覚えがあって当然よ」
回廊のカーブをこえて見えてきた玄関には、子ども用の自転車はなく、代わりに白黒の幕がかけられ、「忌中」と書かれた紙が貼られていた。
開けられた扉の奥には、旅館の入り口くらい大きな靴脱ぎ場が広がる。
「玄関の感じとか、覚えてる、っていうか、思い出した」
「うん」
「この木の置物も覚えてる」
広いあがりかまちに置かれた、輪切りにされピカピカに磨かれたた大きな大きな木の幹。
この年輪のうずを、私はだれかと数えたことがある。
同じ年くらいの子ども。
あれは、だれだったのだろう。
戻り始めた記憶が、私の中で一気にあふれてくる。
気が遠くなるほど畳の部屋がつらなり、その部屋ごとにおかれた座布団を積み上げて遊んだこと。
仏壇のおリンを鳴らして遊んだこと。
縁側に座ってスイカの種を飛ばしたこと。
飛行機雲の数を数えたこと。
ここにいる間、あの子はいつだってそばにいた。
ひいおばあちゃんに呼ばれると、私たちは競って近くに座った。
めずらしいお菓子をもらったり。
きれいな石を見せてもらったり。
外国の不思議な絵本を読んでもらったり。
それから。
あれは何だっただろう。
押入れの奥から出してきたもの。
薄い木の箱に入っていた。
箱は上品なふろしきにつつまれていて、ひいおばあちゃんの宝物なんだと、子ども心にも伝わってきた。
なのに、箱の中を見た瞬間、私はその中の一つに手をのばし、「これちょうだい」と言ったのだった。
なぜだか、それがほしくてほしくてたまらなかった。
たくさんある中で、その一つだけがどうしようもなくほしくて、その感情をおさえることができなかった。
「そうかそうか、それがほしいか」
ひいおばあちゃんは、目を細めて笑った。
「そやったら、持って帰り。それはな、今度こそほしいと言ってくれた人にもらってもらおうと思ってたんや。そうか、ナナミはそれがほしいか。どれ、包んだろさ」
ひいおばあちゃんが、いい匂いのする紙を広げて包もうとしてくれた。
なのに、隣にいたあの子が言ったのだ。
「ゆうちゃんも、それがほしい」
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