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0 接近される僕 (伊吹)
翌日の金曜日。
昨日セックスしなかったからか、体調が良い気がする。
早目に寝られたし、朝も久々にスッキリ起きられた。
学校に着いたら、校門前に花臣くんの姿が見えた。
ドキッとして、慌てて目線を下げる。見ちゃ駄目だと思うのに、目が吸い寄せられてしまう。スラッとしてて、同じ制服を着たたくさんの人の中でも直ぐにわかる存在感。
やっぱりカッコ良いな…。
茶色い髪が朝日にキラキラしてる。
毎日のように崇くんに会ってるしタイプの違うキラキラフェイスも見慣れてきたと思ってたけど…やっぱり花臣くんの姿は長年、僕のライフワークだったから。
でも…何だか、少し前よりは気持ちが穏やかだ。
見ない事に慣れてきたのかもしれない。
僕は花臣くんから視線を外して、斜め下を向いて歩いた。
校門近くなった時。
「今日は顔色、良いね。」
「……?」
前から声をかけられた。
目線を上げると、通過しようとしていた校門の柱のそばに花臣くんが立っていた。
まさか僕に話しかけてるとは思わなくて、周りを確認する。通り過ぎていく生徒達。
「おはよ、能勢。」
「……お、はよ…。」
まさかの僕だった。
なんでだろ?
花臣くんと僕は、こんな風に声をかけてもらうような間柄じゃないのに。
顔色なんか見られてたなんて思わなかった。
嬉しいような恥ずかしくて消えたいような複雑な気持ち。
僕の事なんか気にかけないで下さい。
「能勢、さ。」
「えっ、何…?」
まだ、なにか?
教室が同じだから同じ道を進む事になってて、だけどなんで花臣くんはゆっくり僕の歩調に合わせてついてくるのか。心臓が落ち着かないから先に行ってくれないかな。
そう思ってたのに、花臣くんはまだ声をかけてくる。
「いや、能勢…痩せたよね。」
「……そう、かな。」
「何処か悪いの?無理してたりする?」
「……大、丈夫…。」
やっぱり花臣くんは優しいんだな。そんなに話した事も無い末端の人間にまで気にかけてくれるんだ。
僕は内心とても感動したけど、実際の事なんか言える訳がないので下を向いたまま首を振る。
「特にそんな事も…ないから。ありがとう。」
「…そう?それなら良いけど…。」
「うん。じゃあ…。」
僕は会釈をして、足早に教室に向かおうとした。
花臣くんが一向に先に行ってくれる気配がないからだ。
なのに花臣くんに指先を掴まれて、それにびっくりして思わず振り返ってしまった。
苦笑している花臣くんの顔も、見てしまった。
「そんなに嫌わないでよ、能勢。」
寂しそうに言う花臣くんに、混乱。心がぶわりと。
「き、嫌って、なんか……。」
何なんだろ。今迄 接点なんて無かったのに、何で急に。
戸惑いが隠せないでいたら、花臣くんは更にとんでもない事を言い出した。
「相談があるんだけど、お昼、一緒に食べて良い?」
「へっ?そ、相談?なら、僕じゃない方が…。」
「能勢じゃなきゃ駄目なんだ。」
心臓が跳ねてしまう。
僕なんかお役に立てる気がしないけど、そんな風に言われたら断るのが悪いような気になってくる。
でもそんな…お昼、って、2人でって事だよね…。
大丈夫かな、花臣くんを汚しちゃわないかな。
返事が出来ないでいると、花臣くんは僕の耳に囁いた。
「お願い。」
「……ッ」
断れる訳がない、そんなの。
「……わかった。」
「わ、ありがとう、能勢。」
満面の笑みになる花臣くん眩しい。
今日だけ、今日だけ頑張るんだ…相談聞いたら、終わり、終わり。
僕は自分にそう言い聞かせて頷いた。
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