12 花臣くんの方便 (伊吹)

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12 花臣くんの方便 (伊吹)

お母さんの卵焼きも悪くはないと思うけど、花臣くんの卵焼きはレベチだった。 関西風ってのかな、出汁がどうのって…うん、よくわかんない。 でもとにかく美味しいって事だけは確か。 僕はお母さんの甘い卵焼きは好きだけど、大抵毎回入ってるからちょっと飽きている。 コンビニのパンよりは、作ってくれるだけありがたいかなって思うんだけど、食欲の落ちてる最近ではあまり食べる気になれなくて半分以上残す事も多かった。 夜は夜で崇くんと食べる事が多くなったけど、ファミレスとかウーバーで頼む、味の濃いものばかり。 それを自分のペースで食べられる訳でもないから、やっぱりそんなに食べたくはならない。 崇くんは僕に、食が細いって言うけど、僕がそうなったのは君と出会ってからだと言いたい。 花臣くんの卵焼きは何時もと違った味で美味しかった。最近の昼にしてはまあまあ食べたと思う。 「能勢、やっぱり少食だね。」 「今日は結構食べれたよ。美味しかったもん。ご馳走様でした。」 僕がお礼を言うと、花臣くんは お粗末さまでした、とふわりと笑った。 僕はその笑顔にポーっとなる。 でも 崇くんと同じ事を言われてしまった。 これでも最近では快挙な方なんだけどな。 昨夜なんて、2人だけで崇くんのバースデーパーティーだったからそこそこは食べたけど、胃もたれして朝は食べられなかった。 そんな事を考えて、そう言えば…、と思い出した。 「花臣くん、相談があるって言ってなかった?」 そうだよ。それがメインじゃん。お弁当食べながら話してくれたらよかったのに、と 僕は花臣くんを見た。 花臣くんは、ステンレスのボトルから紙コップに冷たいお茶を注いで渡してくれながら、 「そんなの無いよ。」 と言うので僕はびっくりした。 無いの? 「え、どういう…?」 「俺が、能勢と一緒に昼ごはん食べたかったからの嘘だよ。ごめん。」 花臣くんは僕に頭を下げた。 や、やめて、花臣くんに頭下げさせるなんてギルティだよ。 でも、何で? 「…あんまり喋った事もないのに、どうして?」 僕の頭の中は疑問でいっぱいだ。 すると花臣くんは、ゆっくり弁当箱や色々を片付けながら答えた。 「最近、能勢の事気になってたんだよ。顔色も悪いし。 それに…。」 花臣くんはそこで一旦言葉を止めて、僕の顔を見た。 「能勢さ。あんまり良くない人達と、付き合ってない?」 いきなり核心を突かれてしまった。 そりゃそうだよね。花臣くんの耳にだって入ってて不思議じゃない。 毎日の迎えだって、評判の悪い他校の制服の、しかもあんなに目立つ不良が何人も来るんだもん。 ほんの数日で噂になったみたいだし、周囲の雰囲気や皆の態度はガラリと変わった。 でも、何だか今 花臣くんに"良くない人達"って言われたのは、少し引っかかった。 崇くんも仲間の人達も不良なんだからその通りなのに、何故だか違和感を感じた。 崇くんは、そんなに……良くないけど…良くないだけでも、無い から。最近は。 「…良くない人達、なんだろうけど、そんなに悪くもないよ。」 僕が見てないだけだろうけど、そう答える。 でも花臣くんは微妙な表情をしていた。 「…何か、脅されてたりしない? あ、いや、能勢の友達を悪く言う気は無いんだ。 でも…俺が前から知ってる能勢と、あの人達がどうしても俺の中で結びつかなくてさ。 様子が変わったのも、あの人達が姿を見せるようになった頃だなと思っちゃって。 余計なお世話だったら、ごめん。」 花臣くんはそう言って謝ってくれて、恐縮する。 実際は花臣くんの言う通りだから、申し訳ない。 きっと、言葉を選んでくれてる。 「ううん。心配してくれてありがとう。 でも、そんなんじゃないから大丈夫だよ。」 今此処で僕が、実は何をされてるかなんて話しても、僕の汚らしさを知られてしまうだけ。 状況が変わる事も無いし、何も変わらない。 だから僕は何も言わない。 でも今日は花臣くんと2人でお昼を食べられて嬉しかったな。一生の記念だ。 「今日はありがとう。」 僕がそう言って、ぺこりと頭を下げると、花臣くんは少し何かを考えていたようだった。 「俺の弁当、気に入った?」 「?うん、すごく美味しかった。炊き込みご飯のおにぎりとか、好きだし。」 「そっか…よかった。」 僕の言葉に花臣くんはそう言うと、すごく眩しい笑顔で、 「じゃあ、これからお昼は一緒に食べような。」 と 言ったので、僕の思考は数秒停止した。
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