15 優しさとドキドキ (伊吹)

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15 優しさとドキドキ (伊吹)

ソファから抱き上げられてバスタブに移動させられる。 淡い黄色のお湯の中に静かに下ろされて、温かくてホッとする。 僕がいっとう好きな柚子の香り。 お湯に浸かっている僕をバスタブ横に座って眺めている崇くん。頭を撫でてくれるの、嬉しくて小さく胸が鳴る。 僕は犬か。 半袖シャツにズボンを捲り上げた格好の崇くん。 入らないのか…。 今日は僕だけ洗うつもりかな。服、濡れちゃうからいっそ一緒に入れば良いのに。 じ、と見返すと、 「そんなキレイな目で見るな。」 と言われてしまい複雑な気分になる。 僕の目は特別綺麗でもないと思うし、良く見積もっても普通だよ崇くん…。 でもこの数ヶ月でこのノリにもいい加減慣れてきたので、僕は何も言わずに俯いて、黄色いお湯の中からそこだけぽっかり出ている自分の膝を見た。 やっぱり崇くんって、優しいんだよ、な…。 最初が最初だったから、ずっと嫌悪感ばかりだった。 毎日抱かれて、汚されていく自分。絶望的な気分だった。 だけど、昨日今日で、僕の中の何かが変わった。 崇くんは僕に、セックスだけ求めてる訳じゃないのかなって思った。 それに加えて今日花臣くんに、崇くんの事を 良くない人、って言われて。 僕は引っかかったんだ。 ここ最近の僕の様子を見ていて花臣くんは気に掛けてくれたみたいだけど、という事は、僕の様子から崇くんとその仲間の人達を、"良くない"と判断させてしまったって事なんだろうな。 それに対して少しモヤっとしたんだ。 だから何故モヤっとしたのかを検証する為に、色々な事を思い返してみた。 確かに僕は毎日、望まぬ性行為をされていたけれど、メンタル面は別として、肉体的な事で言えば 最初の時以降はそんなに辛かった訳ではなかった。 合意ではないけど、手をあげられた事はない。 勿論、殴られたり叩かれたりしないから良いって訳でもないし僕が嫌がってるのに突っ込まれたんだからレイプには違いないんだけど。 だけど、だ。 僕、結構大事にして貰ってるし、甘やかされてるなと思ったんだ。 セフレでペットだからって思ってたけど、セフレにしては、崇くんに他のセフレの影は無い。 僕が崇くんと関係し出してから聞いたヤリチンって噂と、 何時も会ってる崇くんの姿がどうにも一致しない。 僕、すごく感じ悪いだろうけど、崇くんを汚いと思ってたから 僕も汚されてるように思ってたように思う。 でも今はそうでもない。 暴力とかにしても、最初に僕を手下の人から助けてくれた時以外、ケンカしてる所も、怒ってるとこも見た事がない。 不良のエラい人なのに、そんな事ってあるのかなと思う。 いくらぼんやりしてる僕でもわかった。 崇くんは僕に、こわいものや事を見せないように気を使ってるんじゃないだろうか。 不良だから、世間的にはやっぱり"良くない"んだろうけど、僕にはそうでもないかな、って思ったのだ。 だから知りもしない崇くんの事を、あんな風に言われたくなかった。 僕ってチョロいんだろうか。 崇くんは僕の目を瞑らせて、頭から静かにお湯をかけた。 そうして何度か濡らして、シャンプーで髪を泡立てられる。手が大きいから地肌に程良い圧がかかって気持ち良い。 それからシャワーで流されて、トリートメントをされた。 崇くんの髪から何時もしてるお高そうな香りだ。 それを流されてから、バスタブのお湯を抜かれて体を洗われた。 崇くんは僕を洗う時、柔らかいスポンジにボディソープを凄く細かく泡立てて洗う。 決して強くゴシゴシしたりしないんだ。 大事に大事に洗ってくれる。 脇の下も、ペニスもお尻も。 最初は恥ずかしかったのに、今では崇くんの手に全部委ねてる。 僕はこの手が、もう僕を傷つけないって思ってしまってるみたいだ。 何時から僕は、崇くんにここまで…。 タオルで包まれてバスルームからソファに運ばれる。 体は中で拭かれたから、今度は髪の水気を小さいタオルで拭われた。 崇くんはドライヤーを取りに行って帰って来て、僕の髪を乾かす。それがまた上手い。こないだ美容師さんみたいだって褒めたら、行き付けのサロンの担当さんの真似をしてみてるんだと言ってた。 覚えが良くて器用なんだと思う。 それから何時ものように崇くんの部屋着を着せられた。 そうしたら崇くんは僕の髪から始まり全身の匂いを嗅いで、やっと満足そうに唇の端を上げた。 どうやら崇くんと同じ匂いになったと判断された模様。 テーブルに置きっぱだったジュースはもう温くなってて、崇くんに新しいものに替えられた。 至れり尽くせりってこういう事かな。 「テレビでも観てろ。」 そう言って今度は崇くんがバスルームに向かって、ものの10分くらいで出てきた。 僕の事はお湯に浸けた癖に自分はシャワーだけだったらしい。 シャワー後で髪や胸元から拭き取れ切れない滴を伝わせる崇くんは、女の子達が見たら失神しちゃうんじゃないか、ってくらいのセクシーイケメンだ。 僕だって思わずドキドキする。 これは花臣くんに対するのとは違う種類のドキドキだ。 そう考えて、あれ?と気がついた。 僕、何故だろう。 何時の間にか、花臣くんより崇くんにドキドキする事が多くなってるような…気がする。
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