16 新事実発覚 (伊吹)

1/1
前へ
/19ページ
次へ

16 新事実発覚 (伊吹)

シャワーから出てきても崇くんはドライヤーを使わない。 僕には使うんだけど自分は使わない。 理由は、面倒臭いから。 だから崇くんの部屋にあるドライヤーは僕が来るようになったから買ったって聞いた。。 何か見た事無い感じのドライヤーだなあと思って検索してみたら、7、8万円するやつらしい。僕はその時、黙って検索画面を閉じた。 ウチの家のドライヤーは家電量販店で4000円しないやつだ。普通に乾くし僕の髪なんかそれで十分です…。 崇くんはそれ以外にも僕専用にやたら高いバススポンジや、妙に肌触りの良いパンツや、僕をダメにしそうな大きいクッションなんかも買って置いてくれてるけど、何故だか部屋着だけは絶対に用意してくれない。 だから僕は毎回、崇くんの部屋着を借りて、でっかいダボダボに包まれながら崇くんの部屋で過ごす。 何のこだわりなのかはわからない。 お金持ちって不思議だ。 2人して同じ匂いになり、例の如く崇くんの胡座の中に収められて暫くまったりテレビを観ていると、コンコンとノックの音がした。 基本的にここに来た時にこの部屋をノックするのは通いの家政婦さんだけだ。 それ以外の人には未だ会った事が無い。 その家政婦さんも、崇くんが不在時の掃除の時にしか、この部屋には入らない。 崇くんちの家族とかってどうなってんだろ? 仲悪いのかな。 ドアを開けに行った崇くんが、トレイを持って帰ってきた。 ローテーブルの上に並べられる食事の皿とグラス。 「あ、ハンバーグだ。」 「好きだもんな?」 「うん、好き。」 子供の味覚とか言われるけど、デミグラスソースとかよりケチャップの乗ったハンバーグがすごく好きだ。 ニンジンとポテトと三度豆のバター焼きが付け合せにされてるオーソドックスなやつ。 ブロッコリーでも良いな。 グラスに水を注いでくれる崇くん。 崇くんって、こういう食事の時はちゃんと水なんだ。わかってるなあと感心する。 湯気の上がるほかほかご飯にほうれん草のお味噌汁。 昨日のジャンクフードとは違う、ごく普通のごはん。 メニューがセレブの崇くん家っぽくないのは、崇くんが僕の為に家政婦さんに頼んでくれてるからだ。じゃないと、よくわからない、僕が食べられないような他所の国の料理を出されたりするから。 「どれから食べる?」 「ハンバーグから。」 崇くんが持った箸の先でハンバーグを割るとジュワッと肉汁が溢れ出して、そろそろお腹が空いていた僕はごくりと生唾を飲んだ。 美味しそう。 流石は崇くんちの家政婦さんというか、何時も出てくる料理は何でも上手なのだ。 崇くんが1口サイズにしたハンバーグを摘んだ箸先を僕の口の前に差し出す。 「いただきます。」 そうして今回も介助付きの僕の食事が始まった。 「崇くんはさ。」 食事が終わって満腹になった僕は、真剣な顔で崇くんを見た。 「幸せだね。こんなに美味しいご飯作ってくれる家政婦さんが家にいて。 ウチのお母さんの卵焼きは5割の確率で焦げてるよ。」 「ブホッ」 不要な筈の僕の食事の介助が終わって、今度は少し冷めた自分の食事をとりながら僕の言葉を聞いていた崇くんが吹き出した。 どうしたの? 「…大丈夫?何か詰めた?」 僕は咳込んでいる崇くんの背中をさすった。 お水、お水。 僕は水のグラスを取り、 「崇くん、お水。」 と、そっと崇くんの前に置いて指先でつつ、と寄せた。 崇くんは一頻り咳がおさまると、はぁはぁ言いながら持ちっ放しだった箸を置いて水を飲んで、やっと落ち着いたみたいだった。 そして、口の周りをナプキンで拭いてから、ゆっくり僕に体を向けて言った。 「いぶ。頼むから不意打ちに面白い事言うのやめてくれ。」 「え、何か面白かった?」 何が面白かったのかわからないので聞き返すと、崇くんは うん、と頷いて僕の頭を撫でた。 「…お母さんの料理の腕は、残念な事だったな。 そんなにウチの重田さんの料理が好きなら、さっさとウチに嫁に来ても良いぞ。」 「えっ、嫁?!」 崇くんの口から飛び出したワードに、今度は僕がびっくりする。それから、ちょっと心配になった。 「崇くん…、大丈夫?僕は男だから、お金持ちの家の跡取りとか産んであげられないんだよ?」 もしかして崇くんは、僕が男だって事を忘れてないかと確認してみたのだ。 何度もセックスしたからって、奇跡はおきないからね? すると崇くんは呆れたような、面白いものを見るような目で僕を見て、 「飽きるほど可愛いチンコ見てるし、しゃぶってるから知ってる。」 と言った。 僕はちょっと恥ずかしくなって崇くんから目を逸らして、テレビを向いた。 それから崇くんに聞いた。 「何で崇くんは、そんなに僕に可愛いとか言うの?」 崇くんは食事を再開しながら答える。 「だって可愛いから。」 「普通、男に可愛いとかあんまり言わないじゃん。」 言わない、よね?僕はあんまり言わないし、思っても口には出さないかも。 すると崇くんは僕に向かって言ったのだ。 「恋人の事を可愛いと言って何が悪い。」 「えっ」 恋人? 「僕って、崇くんの恋人だったの?」 めちゃくちゃびっくりした。 だって、僕の認識では、僕は崇くんのセフレでペットで…。 それを口にすると、崇くんはあからさまに眉を寄せた。 ちょっと不機嫌になった時の顔だ。 「当たり前だろ。何だと思ってたんだよ。 恋人でもなきゃこの俺がこんなに…。」 「…そ、だったんだ…。」 それを聞いて、僕の胸の内は色んな感情が。 困惑や、納得や、嬉しさ。 …嬉しさ? 僕、嬉しいと思ってるのか。 よくわからないけれど、唇は緩んでいる。 「…いや、俺が悪いか。 はっきり言葉にしないままで今迄来たもんな。」 そう言って崇くんは溜息を吐いた。 そして僕に問いかけてきた。 「いぶは、俺の恋人ってのは、やっぱ嫌か?」 僕は……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

876人が本棚に入れています
本棚に追加