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#2 捨て猫
部活も終わって、奈津子と昇降口を出る。
奈津子と並んで、傘を開こうとすると、隣で乱暴にジャンプ傘が開いた。
「わ」
男性物の大きな傘、思わず視線を上げると──げっ、小山廉一!
げ、と言う気持ちが目に出てしまったのだろうか、ぎろりと睨まれ、私は慌てて前方に目をやる。
奈津子と並んで傘に入って歩き出そうとすると、その脇を小山は大きな歩幅で歩き出した。
歩幅の差は単に身長差なんだろうけど、その背は「間違ってもお前らと並んで歩くものか」と言っているような気がした。
奈津子とくだらない事を喋りながら、駅までの道を歩いていた。
あいあい傘なのもあって、ゆっくりゆっくり歩いていた。とその目の前に、脇から突然人が現れる。
「きゃ……!」
奈津子とふたり、声を上げて思わず揃って傘を握り合う。
その男はうちの生徒だ、制服でわかる、雨を避けるために鞄を頭に乗せていて、その腕に隠れて私達が見えなかったようだ。
「あ、すみませ……」
初めて、その人の本当の声を聞いたような気がした。
謝りながらこちらを見たその男は、小山廉一、だった。ぶつかりそうになったのが私達だと判って、途端に目つきが険しくなって、眉間に皴が寄る。
「小山ぁ?」
奈津子が声を掛けると、ふんとでも言いたげに睨まれ、何も言わずに駅に向かって歩き出す。
「あいつ、何やってたの?」
出て来た場所は路地だった、その奥には空き家があると知っている。ろくに人が出入りしない場所だ。
「さあ……」
しかも、傘。あいつ、傘、持ってたはずなのに──そう思って視線を転じた、彼が出て来た路地の奥に──傘が、開いた状態で地面に置かれていた。
「──あれ」
思わず指さした。
「小山の傘?」
奈津子も不思議に思ったみたい。お互い相談もしてないのに、そこへ向かって歩いていた。
覗き込んで驚いた、濡れてぐしょぐしょになった段ボールがあった。その中にはやはり濡れて、原型すら留めていない新聞紙、そして──。
「捨て猫……!」
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