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濡れそぼった猫がいた。
小さな仔猫は生後何時間ってくらいではないだろうか? 目も開いていない。
いつからここに居たのだろう、三匹もいるのに、既に一匹は息絶えているようだ──可哀想に。
残った二匹も衰弱している、一匹は微かに呼吸しているのが判った、もう一匹だけが、私達を見てか細い鳴き声を上げた。
「小山……この子達が濡れないようにって、傘を──」
奈津子が微かに声を震わせて言った、うん、判るよ、あんな怖そうな男でも優しいとこがあるって感動しちゃう。
「でも、ここにいたら死んじゃう」
傘を置いて行ったって事は、たぶん小山は戻ってくるつもりがあるのかもしれない、でも一時的にもこの子たちをここに置いて行ったと言う事は、すぐには連れて帰れない事情があるんだろうな。
「奈津子、小山の連絡先、知ってる?」
「知る筈なかろう」
「だよね」
私も知らないもん。
だから私は傘を奈津子に預けて、鞄からノートを取り出した。
「美紗?」
不安定で汚い字だけど、それを書く。
『猫達と傘はうちで預かります。
傘は明日、学校で返すね。
長崎美紗』
「え、預かるって」
文面を見た奈津子が言う。
「うちは既に二匹居るから、もう二匹くらい増えても大丈夫」
か、どうかは判らないけど。母も猫は好きだ、こんな状態の仔猫を見て放置なんかできない。
ノートを破った手紙を段ボールとコンクリートの壁の間に挿し込んだ。
そして、制服のジャケットを脱いで膝に広げると、生きている二匹をそこに乗せる。そしてもう息絶えた一匹は、その二匹に掛かっていたタオルで包んで──それは乾いていて温かいものだ、これもきっと小山が掛けたんだろう。それに包んで二匹と並んでジャケットに包み込んで抱き上げる。
その三匹を、小山の男物の大きな傘で守りながら歩き出す。
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