インテリア風水

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

インテリア風水

「そういうことで、明日の朝、瀬波温泉にいくことにしたよ」 夜に、僕は自宅の部屋で、二美に話のなりゆきを改めて説明した。 「そうなんだ。三人とも二十一にもなって、まるで子供みたいね」 「ええ、僕もはいっているのかい?」 「そう、本当は勝雄が一番楽しみにしているんじゃない?」 う~ん。女性の直感は鋭い。 いけないことだと思うが、生来の気質というのか、自分の気持ちがすぐに声や顔にでる。ましてや長年つきあっている二美にはすべてが筒抜けだから、なんの隠し事もできない。今度のことも、なにやら刑事の頃の血がさわいでるのは本当だ。犯人をみつけても逮捕することはできないが、やつをみつけたら事の真意を問いただし、黒だと確信したら元同僚に報告してやればいいと思っていた。 「ねえ、インテリア風水って邪道だという人がいるわよね。本当なの?」 二美が突然言いだした。たぶんまた理屈っぽいやつからなにか言われたんだろう。 「たしかに、風水の原点は地相と墓相にあるらしい。ただ、僕は、風水インテリアを実践して、少しづつレベルアップしていくということが大切なんだと思うな。インテリア風水で生活を向上させて財産もふえたらつぎのステップ。よい土地や家相を考えた家づくりとしていけばいいんだ。墓を改葬したり、風水のいい土地を捜すことはとても難しいことだからね」 二美は納得してくれたのか、何度かうなずくと、テレビ画面に目をやった。どうやら雑談程度に質問してみただけのようだった。 僕は気分転換にリビングをみまわした。もちろんこの部屋も風水インテリアである。家の中心点からみて、方位は南にある洋間。 部屋の南側には観葉植物のポトスを置き、北のほうには低い白のスタンド、西にはテレビ。そのテレビの上には白の花瓶にいれた造花のひまわりが飾られている。そのテレビのまえにはグリ-ンのソファが置かれ、西側の壁にはハワイの写真。真っ青な海を背景に水着姿の若い女性三人が写っているが、これは雑誌から切り抜いたものだ。ハワイは日本からみて東南で結婚にいい方角だ。そして、東には赤のカラーボックスのうえに赤い薔薇の造花と、ミニコンポが置かれている。西に黄色は金運。東のほうには音のでるものというのが風水の基本だ。 中央のテーブルには去年二美と二人で旅行した沖縄で写した二人の写真がある。二美の笑顔が、青い空と海にはえて生き生きとしてみえる。人気運をあげるには、南側に自分の写真を置くといいらしいので、日焼けした顔の、自分の写真を飾っている。こうしてみると、思えば風水には中立の立場と話してはいるが、国安に負けないぐらいはまっているようだ。 僕はふと二美をみた。 憂鬱なときも、二美をみているだけで心がなごむ。二美の目はいつも楽しみにしているドラマにくぎづけだ。傲慢にはみえるが、実は情のあつい料理人と、突然父母をなくした女性とのラブストーリーで、僕も毎週楽しみにしている。夕食も終わっていて、二人はテレビをみながら、ときおりデザートであるリンゴを頬ばった。   服装は、ファッションのことにはよくわからない。花柄模様のピンク。とても可愛らしく思える。二美の頬がリンゴをかじるたびに形をかえた。その姿が妙に色っぽく、また愛らしくも思えた。 「勝雄、私のこと愛してる?」   まただ、なんでそんな恥ずかしいことを訊いてくるのだろう。二美はときおり訊いてくるのだが、たんなる言葉じゃないか。長年つきあっているのだから、そんなことわかってるはずだと思うのだが。 「勝雄ぉ、どうなのよ?」   僕は、なにも言わずに二美の肩を抱き、二美の唇をみつめた。淫靡な思いが心をくすぐり、二美の手をとってベッドに誘った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!