16.思惑

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 突然の出来事に冷静に状況を把握しようと、健二は辺りを見渡す。  生い茂る木々がどこまでも続いている場所を歩いていると違和感を覚えた。微かに焦げ臭い異臭が、緩やかに吹き抜ける風に乗ってやって来る。微かな異臭は次第に濃さを増し、吐き気を催すほどになる。  焦げ臭い原因を探ろうと、臭いが濃くなっていく方向へ足を進める。先程まで抱いていた違和感の正体は、この状況を目にする予兆だったのだろうか。自分が今立っている場所が、どこなのかさえ把握できずにいる中で、この現実か幻かの区別もできずにいる。  次第に焦燥感へと変わり、内心では焦りと苛立ちで叫びたくなるのを必死に堪え、足早に進んでいく。ただ風に流される塵の如く、焦げ臭い源に足の向かうとその正体が明らかになった。  ここからでもひしひしと感じる熱気と対流する空気が、これまでと比べものにならないくらい感じる。視界の先に真っ赤に立ち上がる炎が見えた。  押し寄せる炎の壁から逃れようとする動物たちが、健二の横を疾走し去っていく。足下を這いずる小動物と荒い鼻息の大型動物たちが、その状況の深刻さを物語っている。中には、迫り来る炎から逃げ遅れ、全身を火に包まれたまま疾走する動物の姿も目にした。  炎に包まれた森は、轟音と共に燃え盛り、焼け焦げた木々が、甲高い破裂音と共に倒れていく。  健二は、業火の奥にあるものを目にして驚愕した。そこに広がるのは、見覚えのある特徴的な場所だった。  木々に包まれた場所から急に拓けた場所にある湖のような水辺。湖のほぼ中心に小さな島がある。島にはこの場には不釣り合いな巨大な岩石が聳え立っている。  十メートル四方の巨大な岩石が幾つも重なり合い、その周りを蔓植物が根深く張り付き覆い隠している。岩の建造物の中には、物理的枠を越えた巨大な空間が広がっている。  特徴的な建造物を目の前にして、ここが精霊の泉だということがわかった。  健二は困惑する。なぜこの場に立つことになったのだろうか。そもそも、なぜ精霊の泉を囲む樹海が、火に包まれているのか。  はじめは、自然発火による山火事のようなものだと思ったが、ふと上空を見上げると、巨大な影がゆっくりと浮遊しているが見えた。  浮遊物からは、火が着いた樽らしきものが投下されている。
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