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『まさかお前がね』
「何がだよ」
『お前ってさ、いつも受け身だろ。不動産会社を継ぐこともだけど、女と付き合う時も告白されて付き合ってとかさ』
「特にそれで問題がなかったから」
『俺から見ると、次々と彼女を変えていてうらやましい限りだと思っていたけど、お前に気持ちが無いことがわかったから、みんなお前の元を離れていたんだよな、中野美里だけは、お前の気持ちに気がついても蓋をして付き合い続けたんだよな』
「その言葉を否定はしないが浮気をしていい理由にはならないだろ、美里とは人生をずっと共にしたいと思うことができなかったが、不誠実だったことは無いよ」
『俺には無関心なことが不誠実でもあると思うけどな』
「今は違うよ」
『そのようだな、義弟としては兄の恋愛偏差値が上がってきて嬉しいよ』
「そんな話はいいよ、それより本題だ」
『銀座だよ、後で俺が買った店の地図を送っておくから』
「ありがとう」
『がんばれよ』
優とは腐れ縁が過ぎるため、俺のことを俺以上にわかってるのかもしれない。
彩春には少し帰りが遅くなることを伝えて優に教えてもらった店の前に来た。
思いのほか緊張する。
いつまでも店の前を行ったり来たりすると不審者か強盗の下見と思われかねないので勇気を振り絞り入店した。
帰宅途中スマホを見ると田沼英子から[ご飯に連れて行って]とメッセージが入っていた。
一度、田沼英子と彩春の父親は話をした方がいいかもしれない、もし彩春が嫌だと言えば断ればいいと思い了承をした。
彩春に田沼英子の事を話して金曜日に会うことになった。
総務の女子からの嫌がらせに関して彩春に聞いても大丈夫だとしか言わない、その“大丈夫”は本当に大丈夫なのか気になる。そもそも人事課ではない人間が個人情報を見る事や、ましてそれを話すとこの方が問題だ。
ただ、彩春が自分で解決をしたいと望むなら、なるべく見守る方向だが、それで傷つくなら相手に対して俺自身も考えないといけない。
田沼英子からのラインは日を追うことに誘うような言葉になり俺からの甘い一言を引き出そうとしている。男との駆け引きに長けているように思う。だからこそ、何人もの男と同時に付き合って金を引き出しているんだろう、ただそれは一つの綻びで全てがバラバラになってしまう、それが今なのかもしれない。
明日、彩春を心の影に光が少しでも差せばいい。
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