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<春がきた>
少しずつこの日のために準備してきた。
父さんは昌希さんが“車”で食事に連れて行ってくれた。本当は巻き込みたくは無かったけど「今更でしょ」と言われてしまっては返す言葉がない。
梱包もしてもらえるパックをお願いしているがやれることはやっておこうと思ってキッチンに行くと食器棚がかなりスッカスッカになっていた。
「よくこんな状態で父さんが疑問に思わないね」
母さんは笑いながら
「彩春も朱夏もいないから必要最低限にしたって言ったら“不要なものを捨てるのはいいことだ”だって」
ぶはっ
私も思わず吹き出してしまった。
そんな事を言ったら、父さんこそ不要じゃんとは言葉に出すには悪い気がして、心の中で叫んだ。
父さんの荷物は持ち出しやすいように紙袋に入れた。
業者さんの作業の速さに唖然としていると家の中には父さんの荷物が入った紙袋が一つ残るのみになった。
「狭い部屋だと思っていたけど、何もないとこんなにも広いんだね」
「ここに引っ越してきたときは、あの家を追い出されて、彩春と朱夏を抱えて不安で仕方がなくて必死だったから部屋の広さなんて考えてる暇もなかったわ」
この家でささやかだけど楽しかった事や幸せを感じる時も確かにあったんだ。
「ちょっと寂しくなるね」
「彩春は、寂しい気持ちを感じなくていい。これからは昌希さんと、うんと幸せになりなさい」
チャイムがなって玄関に行くと室内のチェックのために管理会社の人が来て、母さんが持っていたマスターキーと私が持っていたスペアキーを渡した。
「他にも鍵があったんですが、無くしてしまったものもあるので鍵の交換代を請求してくだい。あと、同居していた人がいるのですが、もし新しい住所を聞かれても教えないで欲しいんです」
そう言う母さんの言葉に管理会社の人は淡々と話した。
「こちらのご契約者は相馬美冬様ですので相馬美冬様以外に個人情報をお伝えすることはございません」
「あと、この袋をドアの前に置いておきますが後で取りに来ますので、そのままにしておいてください。長い間お世話になりました」
「こちらこそ、長く住んでいただいてありがとうございます」
三人が部屋から出て鍵を掛けると管理会社の人は帰っていった。
ドアの前に紙袋を置いて、母さんはバッグから二つ折りのコピー用紙を取り出すと紙袋の中に入れた。
昌希さんに引っ越しが完了したとラインでメッセージを送ると待ち合わせをしているファミレスに向かった。
「手紙に何を書いたの?言いたくなければいいよ」
「単なる事務連絡よ」と言って笑った。
相馬秋彦様
部屋は3月10日が解約日になっています。
それ以降この部屋に入った場合は不法侵入になりますのでお気をつけください。
携帯電話は3月いっぱいで解約をしてますのでそれ以降は通話はできなくなります。
ラインはブロックしてます。
3月9日
相馬美冬
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