<それぞれの春>

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<それぞれの春>

〜市村美佐〜 あの日、恋人の管弘(すがひろし)と細矢くんが喧嘩をしていると教えられて駆けつけると、普段はおとなしい細矢くんが弘を殴っている所だった。 ただ、本人はアドレナリンでも出ているのか手首の動きがおかしい事に気がついてないらしい。 腕を振り上げたときに、その腕を掴んで弘の顔面に振り下ろされるのを阻止すると、どうしてこの様にな事になっているのか聞いたら、細矢くんの下敷きになっている弘が顔を腫らしながらも慌てているように見えた。 そして、細矢くんから聞かされた話は最低な話で、思わず履いていたパンプスで顔を殴っていた。 あの日の夜にファミレスで話をした。とてもじゃないが、女子大生と浮気、しかも3ヶ月も付き合っているとか、それって普通に浮気から本命にシフトするレベルじゃないの。そんな男の部屋に行くのも、私の部屋に呼ぶのもどっちも嫌だったので人の目があって話をしやすいところということでファミレスで話を聞くことにしたのだ。 歯も一本折れて顔を腫らした弘が息を切らせて入ってきた。 白々しい、何アピールだよ。 「すまない、その本当に反省してる」 「何を反省してるの?」 「その・・・浮気していたこと」 「いつから付き合ってんの?細矢くんの言ったことは合ってる?」 弘は無言で頷いた。 もういい、聞く必要はない。 「私はもう弘とは一緒に居られないから」 「ごめん、本当にごめん。もう二度とやらないから許してほしい」 「なんだか変だよね。2年間付き合ってきて、自分は他に好きな子と散々楽しく遊んでおいて、もう二度とやらないから許してなんて。都合が良くない?別れの一択だから。明日、弘のお母さんにも報告するから、じゃあ」 「別にあの子のことは好きじゃない。単なる遊びだった。本当にごめん」 そう言って頭を下げる弘を残して帰宅した。
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