<それぞれの春>

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家で弘の物を片付けていると、チャイムがなってドアスコープで覗いた時に扉の前で立っている弘に対して無性に腹が立った。 明日、弘の両親に話すつもりだったが、今すぐに伝えてスッキリしようと思った。 弘と別れた事を弘のお母様に伝えると、とてもショックを受けていた。実の娘のように可愛がってくれて結婚の話しも出ていた中の突然の別れ話にお母様も戸惑いを隠せないのはわかるが、浮気についてお母様からも話すから考え直してほしいと言われても、私はそこが重要ではなかった。 新しい若い恋人の為に同僚をハメるような詐欺紛いの事に加担したことが許せなかった。本来なら子供じみた行為を諫めるべき立場と年齢のはずが率先して、それを笑い事にした人間性が無理だとはっきりとお母様に伝え、今まで可愛がってくれた事に感謝した。 そして、未だドアの前にいる弘に電話を掛けてもらった。 コトンとドアポストの音がして少し経ってからドアスコープを覗くと、そこに弘の姿はなくポストには【ごめん】と書かれたメモが入っていた。 社内では仕事上のでの会話以外はする事もなく、あの日、周りで見ていた人たちは私たちのことをおもしろおかしく噂している。 浮気をした側は“最低”という烙印を、された側は“可哀想”という同情を受けるが、それは必ずしも友好的ではなく嘲笑も含まれる。 そして、一番の被害者であるはずの細矢くんが婚約者の妹に嵌められた残念男して噂されていたが、それまで営業成績上位だった弘が資料室へ移動になったあたりから細矢くんが変わっていって弘と入れ替わるように成績が上がりトップになっていた。 当たり障りのない成績だった栗田くんが最下位になっているところをみると、考えたくない事がこの三人の間にあったのかもしれない。
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