<それぞれの春>

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時々、細矢くんと飲みに行くようになり、“あの”妹と結婚すると聞いた時は耳を疑った。 私としてはそんな詐欺まがいの事をする人間とこの先、生きていくのは辛くないか?と聞いても細矢くんの頭の中は“復讐”することで一杯だった。 彼の中で妻を無視して姉を愛し続ける夫になり、認知はするがその子供を愛するつもりがないし、どうせ不倫をするだろうからその時にはしっかりと断罪するというシナリオができていた。 今までの優しすぎる細矢くんはなりを潜めて少し冷酷さのある人格に変わってしまったがそれに反比例して成績は伸びて行った。 ある時を境に憑き物が落ちたような表情になったから「心境に変化があった?」と聞くと元婚約者に「私は次に進んでます」と言われて何をやってるんだろうって思ったらしい。 「遅っ!」 「ですよね」 「でも、妹さんは結婚にノリノリなんでしょ?」 「そうなんだ、お互いこんな結婚は間違っていると伝えたけど、ヒステリーを起こして仕方がななく、子供が生まれたら考えようと言うことにしたが、単に問題を先送りにしているだけで解決にはなっていないんだ」 「そもそも、あんな酷いことして何とも思ってないというかそれで結婚にしがみつくとか考えられない」 「オレのことをATMかなんかだと思っているみたいなんだ。出さないけどね」 「私は妹さんと別れて細矢くんが自分の為に幸せになるべきだと思うよ。だって、責任を取る必要なんて1㎜もないでしょ」 そんな会話をしてから季節が変わって街路樹がピンクに染まっていった。 あれから月に1、2回は現状報告会と称して二人で飲むようになり妹ちゃんの小悪魔を通り越して悪魔っぷりが報告されるようになった。 失踪していた父親が帰ってきたとかで、キモおじと家にいたくないからと細矢くんのマンションに転がり込んできた上に、食事を作るための食費として毎月3万円を請求してきたが、夕食が作ってあったのは一回だけだったり、卒業式用の袴のレンタル料5万円の支援を要求してきたらしい。 流石にそれは断ったと聞いてホッとした。 細矢くんが前のように何でも了承するのではなく、きちんと嫌なことは嫌という人間に変わって、それはいい成長だと思う。 弘のご両親が実家に謝罪に来て、もう一度考え直してほしいと言ってきたそうだが、弘の本当の顔を知ってしまった今は人生を共にできる人間ではないと伝えて完全に関係は切れた。 今回の件で細矢くんは散々な思いをしたけど、そのおかげで私も弘の醜い人間性を知ったし細矢くんも営業マンとしても人間的にも成長したから高い授業料だったと前を向いていくしかない。 そして、細矢くんから嬉しい報告があった。
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