<それぞれの春>

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会社に行くと離婚の理由がバレていた。 キャバ嬢に入れ上げて借金まで作り、家を無くし家族も失った馬鹿な男が出世ルートから転がり落ちるのは当然で、それ以上に女子社員のゴミを見るような目が痛かった。 同僚からも、付き合っても得のない終わった男として馬鹿にされ会社にいることはもう無理だった。 仕事も無くし行くところが無い為、俺が頭金を出したマンションに向かった。俺だってあのマンションに住む権利がある。 ところが、若くて男前でそれでいて鍛えてそうな男が部屋から出てきた。 すごすごと引くしかなかった。 借金を返さないといけない為、ハローワークに通い詰める日々が始まった、職種を選んでもいられないし、働けるだけありがたいと思った。 少しでもお金を返してもらえないか、あのマンションに行くと、知らない人間がそこに住んでいた。 返済は待ってもらえず、除染作業など賃金のいい仕事の為に地方に行くこともあった。 キャッシングで膨れた借金を6年かけて完済して無理をしたせいで腰を痛めた為、生活ができる程度の仕事量にセーブし暮らしていた。 時間があると思い出すのは英子ではなくて家族のことだった。 二人の娘はもう大きくなっただろう。 すでに通信用としては使えなくなったスマホにたった一枚だけ残してあった家族の写真。 もっとたくさんあったはずなのに、田沼英子に溺れて、ストレージの容量のために消してしまった家族の写真を取り戻したいのに、そこにあるのは田沼英子との享楽に溺れた自分の姿だ。 そして、その写真を消すこともできずそんな自分に嫌気がさす。 そして、尿路結石で仕事中に動けなくなり救急搬送された病院で掃除をしていた美冬と再会した。
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