<それぞれの春>

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翌日、アパートに帰ると美冬の態度はいつもと変わらなかった。 数日は、気にかけていたがきっと美冬は昔のことだと割り切っているのかもしれない。 朱夏がオレのことを気持ち悪いとか言い出して婚約者のところに行った。 そもそも、その婚約者というのは彩春の婚約者だったはずだ。 呆れてものも言えないが、文字通りおれにはそんなことを言う権利はない。 そもそも、家族ではなくなっているんだから。 朱夏が出て行ってから美冬は断捨離だと言って部屋を片付け始めた。 ずっと一緒に居た彩春や朱夏がいなくなって二人の物があると思い出して寂しくなるんだろう。 これからの残りの人生はオレが美冬と一緒にいよう。ちゃんと仕事を探して、昔のようにマイホームを買うとかそういうことはできなくても二人でのんびりと暮らしていこう。 彩春の新しい婚約者に食事に誘われた。 一応、父親であるから気をつかってくれているようだ、英子との話合いの時も、彩春を支えてくれていて外見だけではない本物の男前なんだろう。 カジュアルなレストランで気負うことなく美味しく食べられるところだった。 昌希くんは運転だからと言ってオレだけビールを飲んだ。息子がいたらこんな感じなんだろうか、彩春と結婚したらいい関係を築けるかもしれない。 アパートの前で降ろしてもらい部屋の前に行くと紙袋が置いてあり、中を覗くとオレの荷物だった。 元々荷物は無かったが、美冬と暮らすことにした時、持っていたものは全て売ったからこの紙袋がオレの全財産でもある。 紙が入っていたから手に取って開いてみるとそこには部屋を解約したと書いてあった。 慌てて、中に入ると部屋の中は空っぽだった。 身体中の力が抜けて膝から崩れ落ちた。 捨てられたんだ。 オレが美冬にした事だ。 美冬はオレを許してなんか無かった。 当たり前だ、オレは再会してから美冬が何も言わないことをいい事に、美冬にやったことに対して謝罪の一つもしていない。 謝罪もしていないのに、許してもらえるはずが無かったんだ。 すまなかった。 今度こそちゃんとするから。 またいつか出逢えた時はきちんと謝罪をしてやり直せるように頑張るから。 その時はまた一緒に暮らしたい。
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