一人

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 チャンネルを変えて、他のニュースにする。そこではコメンテーターたちが議論していた。 「爆発の寸前、40階からおかしな服を着た若者がトラブルを起こしていると、警備室に連絡が入ってたようです」 「やっぱそいつが犯人なんじゃないの? タイミング的にぴったりだよ」 「爆弾を持っていて、脅したってことですかね?」 「分かんないけど、受付の人は危ないと思って通報したんでしょ。絶対そいつだよ、間違いない」 「40階にあったのはインテリジェントシーケンス。誰もが知る新進気鋭の会社ですね」 「犯人はその会社に相当の恨みがあったんだろうね。フロアをまるごと吹き飛ばしちゃうんだから」  コメンテーターたちは脚本があるかのように、青年が犯人だと断定して話していく。 「もしかすると、もしかするとですが、その会社の取引先だとか?」 「あり得るね。あの会社、表向きは優良企業を気取っているけど、裏ではひどいことやってたってウワサだから」 「若者のようですし、インテリジェントシーケンスの元社員っていう線もありますね」 「あるねえ。クビになった腹いせとか。俺もこの番組クビになったら、爆弾をスタジオに持ち込んじゃうね」 「おっとー。冗談はそんぐらいにしておいてください~」 「あっはっは! こりゃすまんね!」  警察が流している情報も少ないこともあり、番組は青年のことについて言いたい放題だった。  偶然で引き起こされたガス爆発などの事故よりも、こうして人間の意志がある事件のほうが視聴者には面白いのだ。  しかし、希海はそれとは異なる衝撃を受けていた。 「そんなことで、あれだけの人を殺したの……?」  ただの爆発事故だと思っていたのだ。それが私怨で会社の人を殺し、大勢の人を巻き添えにした時間だと思うと、非常に腹が立った。  その推測が確かかは分からない。しかし、爆弾を仕掛けた犯人がいたとして、どんな事情があれば人を殺せるのだろうか。  希海は一つ思い当たることがあった。 「あたしはあなたを殺したいよ」  犯人が被害者に対して思った感情、それだけは希海も共有することができた。  けれど周りの人間を巻き込む気にはまったくなれない。ピンポイントで犯人を一刺しして、両親の無念をぶつけてやりたかった。
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