私刑

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「お前の言う通りだ。俺がやった。頼まれてやったんだ!」 「ほう……」  蝦高がただの物取りではなく、誰かに依頼された暗殺者であるということは、ネットの噂話だった。さすがにそれが真実だとは思っていなかったが、殺しをやっていないという主張はウソで、ただの居直り強盗だと思っていた。  しかしネットの噂というのもバカにできないもので、蝦高の行動は計画性があり、裏には何か大きなものが絡んでいるようだった。  異世界では、暗躍する犯罪組織がたくさんあり、こういった事件はよくあったが、まさか日本にも存在するのは思ってもいなかった。 「言われた通りにやれば、すぐに出所できるって言われたんだ。俺はそれに従って殺しをやり、こうして再審を請求した」 「依頼者は?」 「お前も同業なんだろ? 辰命会だよ。よくある依頼だ。事情は分からねえ。奴が不都合だったんだろう。殺せと言われたんだ」  暴力団が絡んだ事件のようだ。あらかじめ手を回してあり、蝦高の罪が軽くなるように仕組まれていた。被害者である荒居氏がなぜ暴力団の標的になったか分からないが、末端の殺し屋である蝦高から聞き出すのは難しそうだ。 「そういうことか。ちゃんと話してくれて助かったよ」 「全部話したぞ、この首輪を外してくれ」 「悪いがそれはできない」 「なんでだよ!! 約束がちげーじゃねえか!」 「今の話が真実だとして、お前の再審を阻止することができても、死刑にはできないだろう。それでは正義が守られない。ならここで、俺がお前を殺してやる」 「はあ? なんだと! てめえ、謀りやがったな!!」  蝦高は鉄格子に組み付いて大声で叫ぶ。 「おおーい! 助けてくれー!!」  すぐに看守が駆けつけるだろう。普通の侵入者であれば慌てる事態かもしれない。しかし、ヒデオにとっては自供が得られれば十分で、その後事態が悪化しようと関係ないのである。 「悪いが見せしめだ。派手に死んでもらうぞ!」  ヒデオはナイフに魔力を込めて、愚かで惨めな囚人に投げつける。 「おーい! おおっ……」  ナイフが蝦高の背に命中すると同時に爆発が起こり、周囲の空間がえぐり取られ、ぽっかりと大きな穴が開いた。  それと同時に警報が鳴り響いた。耳をつんざく爆発音とともに、刑務所で寝ていた者すべてを目覚めさせただろう。 「それじゃあ、お暇するか」  ヒデオはポケットから何かを取り出して床に置いた。  ボイスレコーダーだった。  密かに蝦高との会話をしてあり、蝦高が話す真実を公開するつもりだったのだ。これでは自分に関する証拠を残すことになるが、それはヒデオにしてみればたいしたことではない。  ヒデオを隠密魔法と跳躍魔法を使い、開いた大穴から脱出した。  遅れて看守たちが駆けつけ、破壊された独房を見て大騒ぎしている。  魔法の知らない彼らはガス爆発でも起きたとしか考えられず、まさかヒデオがついさっきまで独房にいて、飛び去ったばかりだとは思わなかった。
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