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「今や時の人、『異世界からの復讐者』が現れた現場に来ております! こうして規制線が張られ、中に入ることはできませんが、この雑居ビルに反社会的勢力の事務所があり、殺人が起こったようです!」  マイクを持ったレポーターが興奮気味にテレビカメラに向かってしゃべっている。 「特殊詐欺を行っていた組織とみられ、メンバーは全員殺害されたと発表されています。現場には報道関係者以外にも、『異世界からの復讐者』……『アベンジャーフロムディフェレントワールド』、通称『ディフェンジャー』ファンも多く集まっており、よくやってくれた、正義の使者だと賞賛する声が上がっています」  レポーターの周りには報道クルー以外にも、大勢の人がいて、スマホのカメラを向けたり、ディフェンジャーの名を叫んで賛美したりする者もいた。 「福永スカイタワーの犯人と目されていますが、その後は多くのいわゆる『悪人』を殺害しています。しかしその姿は確認されておらず、声から20才前後の男性と言われていますが、いったいどのような人物なのでしょうか?」  野次馬の中には、ディフェンジャーを想像して書いたイラストを掲げていたり、Tシャツにプリントして来ていたりする者もいる。これまで監視カメラに写っていたことはないため、どんな姿をしているか明らかになっていないが、その性質から忍者衣装を来た美少年、ということで広まっている。 「そういうつもりじゃなかったんだけどな……」  ヒデオは隠密魔法で姿を消し、向かいのビルの屋上からその様子を見ていた。  ヒデオは誰を殺すべきか、自分なりにリストを作成し、蝦高と同じような殺人犯、麻薬の売人や詐欺グループ、反社会的勢力や暴力団など……。話題になっていた人物を調べ上げ、一人ずつ殺していっていた。  手口は同様に、標的から事情を聞いて真実を見極めてから殺し、証拠を残していった。巻き添えを出さないよう注意を払ったこともあり、一般人には被害はない。 「異世界からの復讐者」の名はニュースでも多く取り扱われ、毎日のように新聞の一面に上がった。  内容はヒデオの殺人を非難するものが多かったが、ネットでは英雄視されるようになっていた。「よく殺してくれた!」「正義の執行者だ!」「ダークヒーローかっこいい!」「今度はこいつも殺してくれ」というコメントが殺到する。こうして現場を訪れるファンも多くなって、期待はどんどん高まっていた。  ヒデオとしては、あくまでも自分は殺人鬼だと思っていた。  福永スカイタワーの大量殺人は一生背負うべき罪であるし、それからの殺人も相手が悪人だからといって正当化する気はなかった。  形跡を残さず完全犯罪にすることはできたが、あえて自分の肉声を残したのは同一の犯人であることを示すためだった。それが記録として残されれば、世はその数だけヒデオに対して罪を問うことができる。 「しかし、困ったことになったな……」  異世界からの復讐者が次に誰が殺すのかがテレビやネットでも話題になっていた。市民はそれを楽しんでいたが、警察は殺人鬼を野放しにはできず、対応に追われていた。  テレビでは刑事が取材を受け、意気込みを語っていたが、最近では失態続きで取材を拒否する姿が映し出されていた。  ネットやワイドショーにエンターテインメントを提供するつもりもないし、警察にも面倒をかけたくなかった。  また、警察に捕まる不安はなかったが、標的の周りを警察や報道がうろつかれると活動しにくかった。 「他の方法を考えてみないとな……」
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