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「今は生きろ。そして仇を取ってくれ」
「ヒデオ……。俺も……最後まで戦うぞ……!」
一人が立ち上がって剣を構える。
剣士パトリック。人類の叡智を結集して作れた彼の剣は、魔王への有効打となると考えられていたが、魔王の魔法によって打ち砕かれ、先端が欠損していた。
「パトリック、やめておけ……。ヒデオの決意を無駄にするな」
杖を持った男がパトリックの顔に触れる。
そしてその手で目を隠すと、パトリックは急に意識を失い、がくっと膝をついた。持っていた剣が転がる。
眠りの魔法だ。
「恩に着るよ、ジェームズ」
攻撃術士ジェームズは眠ったパトリックを抱え、ふっと笑った。「感謝するのはこっちのほうだ」と言おうと思ったが、ここにおいて言葉は無粋だろうと何も言わなかった。
「何言ってるのよ! ヒデオを置いて逃げられるわけないでしょ!」
「いいんだ、メアリー。俺は今日この日のために転生したんだと思う。仲間を救えただけで、生まれ変わった意味はあったさ」
ヒデオは転生者だった。異世界で新たな肉体をもって生まれ変わり、勇者として魔王討伐に臨んだ。
しかし結果は大敗、この有様である。自分にできることを考えた末の決断だった。
「ヒデオ……。あなたこそ……本当の勇者よ!」
回復術士メアリーは涙を流しながらに言う。
メアリーとジェームズはパトリックを抱えて下がり、王の間から出て行く。
「待たせたな、魔王。最後の戦いをしよう」
「いくらでも待つとも。我はここで何百年も強者が現れるのを待っておるのだからな」
「なめたことを……」
魔王は圧倒的な力を持ちながら、人類を一度に滅ぼそうとしなかった。配下の魔物を人間領に送り込むだけで、自身は勇者と呼ばれる討伐軍を居城にて待ち受けている。
「さあ、貴様の全力を見せてみよ」
「言われなくとも!!」
ヒデオはパトリックの剣を拾い上げて左手に持ち、右手に己の剣を虚空から出現させた。
そして二つの剣に魔力を帯びさせる。
魔法剣だ。ヒデオがこの世界に来てから身につけ、一番得意とする魔法だ。
(……これは死ぬな)
勝算は初めからなかった。最強の装備、最強のメンバーで挑んで勝てなかったのだ。一人で勝てるわけがない。
(……だが不思議と恐怖はないな。異世界に転生して18年。前の人生を足せばだいぶ生きたもんだ。それに“今回”の人生は生きる価値があった……)
ヒデオは剣を構え、魔王に向かって突進する。
「これが異世界に生きた証だ!!」
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