スカウト

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スカウト

「いやー、ディフェンジャー大人気ですね!」 「悪人を見つけ出して殺してくれるんだから、そりゃこんなに嬉しいことないよ。ヒーローだね」 「でも、ディフェンジャーのやってることは殺人ですよね?」 「そりゃ日本は法律があるから、死刑以外で人殺せないからね。だからこそ、民衆がヒーロー視するわけだ」 「悪人がいなくなってくれるのは嬉しいんですが、殺人を素直に喜んでいいのか、分かりませんね」 「こういうテレビでは、そう言うしかないね。この前殺された、蝦高なんて佐藤さんひどく憎んでたじゃなかったっけ。殺されてすっとしたんじゃない?」 「あはは、何言ってるんですかー。法治国家で私的な殺人なんて言語道断ですよー。でも映画に出てくるようなダークヒーローみたいですね。市民に変わって悪を断罪してるんでしょうか」  テレビではコメンテーターが異世界からの復讐者について話していた。 「何がヒーローよ……」  希海はテレビを見ながら食事を取っていたが、自然と箸を強く握りしめてしまう。怒り任せに折ってしまいそうだった。  自分の両親を殺し、罪のない人を大勢殺した人間がヒーローと呼ばれているのが許せなかった。  ヒーローとは高潔で堂々と正義を行う存在だ。姿を隠して暗殺する者のことではない。それが希海の解釈だった。 「あたしがヒーローなら、あいつを正面から叩き潰すのに……」  しかし、自分は普通の女子高生。警察でも正体をつかめていない人間に対してできることはない。 「それにしても、ディフェンジャーって呼び名、なんか変身ヒーローみたいですよね」 「ああ、そういう戦隊ものありそうだね。何か守っていそうな」 「色はやっぱブラックですかね」 「それじゃ俺は赤にでも立候補しようか」 「蔵本さんはやられる側じゃないですか? 悪の幹部でしょう」 「うっはっはっは! こいつは一本取られたね!」  希海はそこでテレビを消した。  そのままリモコンを投げつけそうになるが、はっとしてやめる。 「ダメだ……。なんでもイライラしちゃう……」  あの事件から心の状態がよくないと感じていた。  テレビで話していることは脳天気で的外れ、聞いていていつもイライラする。学校には復帰して通っているが、クラスメイトと会話を合わせるのがつらくなっていた。心にゆとりがなくて、つまらないところで突っかかってしまうのだ。いつも友達に申し訳なく思う。  自分の考えを通したい、相手に自由にさせたくない、相手を屈服させて従えたい、そんな気持ちに支配されそうになるのだ。  しかし、そんな感情はヒーローとは大局にあるものだ。怒りをぶつけて我を通すなんてかっこ悪い。  そのとき、ピンポーンとインターホンが鳴った。  希海は深呼吸をしてから玄関に向かう。 「はい?」  ドアを開けると、体の大きな黒服の男がいた。  また佐野という刑事かと思ったら違った。佐野よりも厳ついが、清潔感がある。  第一印象は怖い。がっちりした体格、厳格そうな顔つきは普通の人に見えなかった。やはり警察の関係者だろうか。 「何かご用ですか?」 「お忙しいところ申し訳ありません。わたくしこういう者でして」  男が名刺を差し出してきて、希海ははじめての体験に戸惑いながら、名刺をできるだけ丁寧に受け取った。 「防衛省……?」 「技術開発部の久間田洋一(くまだよういち)と申します」 「どうして防衛省の方が?」 「中でお話をさせていただいてもよろしいですか?」
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