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どうして自分に防衛省の人が尋ねてくるのか分からなかった。こっちはただの女子高生だ。
しかし拒否する理由もないので、希海は久間田を家に上げた。客間などないのでリビングに案内する。
「お茶入れてきますね」
「いえ、お気遣いだけで十分です」
言われて見れば久間田は防衛省、つまり自衛隊関係の人に見える風体をしている。肩幅が広く筋肉質だ。スーツがちょっときつそうに見える。
けれど思いのほか、丁寧な口ぶりなのが逆に恐ろしく感じてしまう。
「……それで、何か私にご用ですか……?」
「その前にお線香を上げさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
久間田は両親の仏壇の前に座ると、丁寧な所作で線香を上げて手を合わせた。
床に正座したまま話し始めそうだったので、希海は久間田をソファーに座らせる。
「『異世界からの復讐者』はご存じですね?」
「はい、もちろん。でも、警察には話せることは全部話しましたよ?」
希海を訪ねてくるのは必ず、福永スカイタワー、そしてディフェンジャー絡みだ。報道でなければ警察関係者で、防衛省は初めてだった。
「警察とはまったく別の組織でして、申し訳ありません」
希海は眉をひそめる。
防衛省が普段どういう仕事をしているのか全く想像がつかないが、防衛省または自衛隊がどうしてこの件に関わっているのだろうか。福永スカイタワーの救出作業には自衛隊が出動していたが、捜査はすべて警察でやっていて、その後は関わっていないはずだ。
「これを見てもらえないでしょうか?」
そう言うと久間田は、カバンからノートパソコンを取り出して起動する。
そして希海のほうに向ける。
それは動画だった。
「映画、ですか……?」
乾いた土地に素朴なコンクリートできた建物、ターバン姿のアラブ系の男たちが映っている。男たちは険しい顔をして銃を持っていた。
映画やテレビでよく見る中東の風景に思えた。だが映画にしては映像が荒い。
久間田は答えなかった。しばらく黙って見ていろということなのだろう。
動画内で、突然銃声がする。
建物から、女性と子供が飛び出してくる。続いて武装した男が出て発砲し、悲鳴が上がった。威嚇目的だったのか、弾は当たってはいないが、女性たちはひどく怯えていた。それに対して武装した男が怒鳴りつける。
何と言っているのか分からないが、言語を知らなくても内容はだいたい想像できた。
「中東の紛争地帯で撮られた実際の映像です」
「え……実際のですか?」
「人狩りが行われています。テロリストたちはこうして村を襲って、人をさらっているのです」
「ン……」
どうしてこんな凄惨な映像を自分に見せるのだろう。ただの女子高生が見るものではない。
大勢の女性や子供が銃を突きつけられ、車に乗せられている。周りには殺された男性もいた。
さすがに見ていられなかったので、文句を言おうとしたとき、映像の中で爆発が起こった。
映っていた兵士が吹き飛ばされたのだ。
そして次々に爆発が起こり、他の兵士たちも巻き込まれていく。
何者かに襲撃を受けたということは、戦争や戦闘に疎い希海にも分かった。
兵士たちは、画面外にいる襲撃者に向かって発砲している。
次の瞬間、兵士は真っ二つになっていた。隣にいた兵士たちも同様に切り裂かれていく。
「ひっ!?」
それは作り物の映像ではなく、まさにリアルだった。なんてものを見せるのだろう。
「やめてください!」
希海はノートパソコンの向きを変える。
「見えましたか?」
「見ましたよ。グロいのを。なんでそんなものを見せるんですか!」
「ディフェンジャーですよ」
「え?」
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