スカウト

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 久間田は再びノートパソコンを希海に向けた。  希海は映像を見たくなかったが、その言葉を聞いては見るしかなかった。自然と注視してしまう。  画角の問題で映っていないが、何者かと兵士たちの戦いは続いていた。激しい銃撃音が聞こえる。  兵士たちは苦戦しているのだろうか。銃声に加えて、悪態をつくセリフと断末魔しか聞こえない。  そのとき、一瞬、黒服の男が映った。  黒一色に染めた見慣れない服装で、手には長い剣を持っている。  無理矢理、何かに例えるなら中世の暗殺者といった雰囲気だった。強くて凄腕のプロ。そして恐ろしさがある。 「あっ……」  もっと見ていたかったが、久間田がノートパソコンを閉じてしまった。 「それがディフェンジャーです。映像はテロリスト側が残していたものですが、それとは別に、いつものようにボイスレコーダーが残されていました」  希海はその姿をもっとしっかり見たかったが、それは機密情報のためか、久間田はパソコンをカバンにしまい込んでしまい、もう見せる気はないようだ。 「どうしてディフェンジャーはこんなところに現れたんですか? これまで国内だったのに」 「それは分かりません。ですが、やっていることは一貫しているように見受けられます」 「やってること……」  それはダークヒーローとして悪を誅伐するということだ。  殺した相手がテロリストというのはすごく分かりやすい構図だ。希海にも、人を殺し、女子供をさらおうとする悪人が殺されるのは、当然のシーンのように思えた。  つまり、ディフェンジャーが正義のヒーローに見えたということである。そこは少し悔しかった。 「それで……どうして私にこんな映像を? そりゃ両親を殺したディフェンジャーには恨みがありますけど……」  自分は軍事専門家ではないのだから、こんな映像を見ても有益なコメントを言えない。分かるのは、ディフェンジャーがとてつもなく強いということだ。それこそ特撮番組のヒーローのように。 「あなたは特別な存在で、人には持っていない力を持っているということが判明しました」 「へ……? 特別?」  あまりにも突拍子のないことにマヌケな顔をさらしてしまう。 「いやいやいや、普通の人間ですよ! 勉強も運動も普通で、何ができるってわけじゃないです! え? もしかして……あんなすごい動きができるとか思ってるんじゃないですよね?」  ディフェンジャーのあんな映像を見せられた理由で、希海が思いついたのはそれだ。 「可能性はあると思います」 「いやいやいやいや! ないないない、ないですって! 逆立ちしたって、あんなことできません! 逆立ちもできませんけど……」  運動神経は至って普通だ。ヒーローの中の人になりたいと思ったこともあるが、運動があまりできないので諦めた。見た目も俳優のように長身で美しくもない。  しかしそんなのは子供のときの夢に過ぎない。それで落ち込むこともないし、執着することもない。ヒーローは見る専門だが、テレビの前以外は普通の女子高生。友達とはヒーロー好きであることを隠して、普通の会話をしている。 「あなたは思ったことがあるはずです。なぜ自分だけ生き残ってしまったのだろうと」 「それは……」  急にシリアスな話になり、心が一気に冷たくなる。  実際に思ったことがあった。どうして両親が死に、自分が生き残ってしまったのか。自分に起きた奇跡を呪う行為である。 「あのフロアにいた人間はすべて亡くなっています。あなたを除いては」 「ただの偶然ですよ……」  病院関係者や報道では、神が救ってくれた、両親が守ってくれたという言葉で表現していた。 「あなたがこの世に生まれたことは偶然かもしれませんが、あの事件で助かったのは必然です」 「ど、どういうことですか……?」 「あなたは、この世界の人間ではない可能性があります」
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