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海外
戦うことは怖くない。
命を賭けることには慣れすぎている。
ヒデオは15才にして仲間たちと旅に出てから、常に死と隣合わせだった。
敵はモンスターばかりではなく、強欲であったり野心家だったりする人間のこともあった。もちろん初めは人間を相手にすることに抵抗があった。だが、襲ってくるならば何者であっても、己の、そして仲間の命のために火の粉を払わなければいけない。人類を苦しめる魔王と倒すという大義の前に、悪党なんかのために命をくれてやるわけにはいかないのだ。
ヒデオは日本を離れて海外に進出することにした。危険を伴うが、凶悪な存在を求めて新たな場所を目指す。
飛翔魔法と隠密魔法を駆使して、乗り物を乗り継ぐことで、ようやく中東の紛争地帯へやってきていた。
「あいつらがいれば、魔法だけで来られたんだけどな」
飛翔魔法といっても、移動の補助程度でしかなく、飛行機の速さや航続距離には遠く及ばなかった。
それにヒデオは本職の術師より魔力が劣るため、単独で移動するのは困難なのである。けれど異世界では、仲間たちと魔力を掛け合わせることで、高速飛翔が可能だった。
紛争地帯の情報はネットで調べても、ほとんど出て来ない。どこにどの派閥の集落があって、テロリストがどこまで勢力を広げているのかなど、リアルタイムな情報を得るのは困難だった。
仕方なく足で稼いで周囲を見て回ることになった。
しかし、この地域は多くの男性が武器を携帯していて、誰が悪党か判別が難しかった。
それは異世界も同じだった。武器がなければモンスターと戦えないので、武器の携帯は飲み物のペットボトルと同じぐらい当然のことだ。
異世界では、国家の枠から外れた独立勢力も多く、誰が味方なのか敵なのかは実際に会って交渉するしかなかった。当然、縄張に入っただけで問答無用に襲ってくる者もいた。
見知らぬ土地へ移動することには慣れているので、こうして紛争地帯にやってきても恐怖はなかった。何かあっても、自分の腕と装備を頼りに戦うだけのことだ。
とはいえ、現代兵士とは戦ったことがなかったため、本格的な銃撃戦となったら、どう立ち回っていいのかという懸念はあった。
ここでも仲間がいたら……と思ってしまう。魔王討伐の旅でどれだけ仲間に助けられ、頼っていたかを思い知らされる。
数日集落を渡り歩いて、明らかに雰囲気がおかしい場所へたどり着いた。
「人狩りか、どの世界も変わらないんだな……」
ヒデオにとっては見慣れた風景がそこにあった。
武装した集団が集落を襲って、労働力になる者をさらっていくのだ。抵抗する者は殺し、女は犯され、子は兵士として育てられることになる。
自分たちの子を増やしていくのには数十年、数百年かかるため、これが勢力を広げる一番効率的なやり方なのだ。大国の勢力圏から外れた小勢は必ずこうしている。
銃声と怒号が響き、人々がトラックに押し込まれていく。
(だいぶ多いな。こんなことなら攻撃魔法も練習しておくべきだった……)
敵兵士は数十人ぐらいいて、どれも銃や対戦車砲を担いでいた。ヒデオの攻撃能力では全員倒すのに時間がかかってしまう。
ヒデオが得意とするのは魔法剣だ。一対一の戦いには無類の強さを誇るが、相手が集団だと不利になる。
他の魔法は実戦レベルには届かないと思い、ほとんど修練を積んでいない。すべて自分でやろうとせず、専門を修める仲間を頼っていたのだ。攻撃術士のジェームズなら、一瞬にしてこの場にいる兵士たちを殺害できるだろう。
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