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ヒデオは隠密魔法を解除して、ボイスレコーダーを取り出した。
姿を消したまま戦うこともできるが、激しい動きをしたり、他の魔法を使ったりすると効果が薄れて、結局姿が見えてしまう。ヒデオの魔法技術ではそれが限界だ。
そして、姿を現さないまま殺すのは、相手が悪党といえどフェアではないと思えたからだ。まずは相手の出方をうかがい、可能ならば話を聞きたい。
「武器を捨てろ! 人々を解放するんだ! そうすれば手は出さない!」
高台から兵士たちに向かって叫んだ。
すぐにこちらの姿を認め、何か叫んだあと、いきなり発砲してきた。
そんなところにいれば格好の的だが、距離が離れていることもあり、弾はあさっての方向へ消えていった。
「はあ……。これも世界共通だな」
暴力的行為をしている連中には何を言っても無駄なのである。
ボイスレコーダーの録音ボタンを押して懐にしまい、今度はナイフを数本取り出して魔法を込める。
そして一本を兵士に向かって投擲。兵士に刺さると同時に爆発が起きて、周囲にいた兵士を巻き込んで戦闘不能にする。
どこでも手に入る現代の小型ナイフであっても、ちょっと魔力を込めればこの威力である。
突然の爆発に兵士たちは驚くが、すぐに敵襲が現れたと判断し、銃をつかんで警戒に当たる。
建物やトラックから次々に兵士たちが飛び出してきて、数は100人ぐらいまで膨らんでいた。
「正面から叩き潰す!」
ヒデオは再びナイフを投擲すると、今度は剣を出現させる。
魔法剣で大量の魔力を放出させれば、まとめて倒すこともできるが、周囲には大勢の民間人がいて、この混乱で入り乱れてしまっている。これ以上攻撃したら巻き込んでしまうだろう。一人一人倒すしかないが、ヒデオは一番得意とする白兵戦を選んだ。
ヒデオのいる場所に向かって、あちこちから銃弾が飛んでくる。
ヒデオは大きく跳躍してかわし、一気に兵士にいるところまで飛び降りた。
「こいつ!!」
兵士は突然目の前に現れたヒデオに銃を向けるが、それよりも速くヒデオの剣が体を二つに引き裂いていた。
その様子に仰天した兵士にも俊足で接近し、これにも剣を滑らせる。
遠くから発砲音。すぐ反応して、ヒデオは近く家の裏に身を隠す。ヒデオがいたところには銃弾の雨が叩きつけた。
「どっからでも攻撃できるのが銃のいいところだな……」
敵はあちらこちらに展開し、ヒデオに向かって集中攻撃をしかけている。
間断なく射撃が続き、頭出した瞬間に撃ち抜かれそうだった。
今の軽装でも、防御魔法を使えば防げるが、連続で食らい続けていれば、魔力による防御もはがされてしまうだろう。これもヒデオが本職ではないからである。回復術士メアリーがいれば、強固な魔法障壁を張り、そもそも避ける必要がなかっただろう。
有効な遠距離攻撃も持たないため、なかなか反撃できなかった。
「やばっ!」
ロケットランチャーを担いだ兵士と目が合い、弾頭が発射される。
ヒデオは着弾前に飛び去るが、家の壁が跡形もなく吹き飛ばされた。
すぐに姿勢を立て直して、銃弾をさけながら近くの兵士を切り裂いていく。銃で殴りかかってくる者もいたが、銃ごと両断する。
とにかく移動を続けて切りつけていく。兵士のそばにいれば、他の兵士は撃てないので、それが一番攻撃を受けない方法だった。
これで半数は倒しただろう。さすがに全部かわすことは不可能で、何発も被弾していたが、防御魔法が弾丸を弾いていたので無傷である。
ヒデオを飛び出して剣を一振りしようとしたが、その手を止めた。
「うっ……」
剣の先には女性がいた。
恐怖で顔は凍り付き、涙が止めどなく流れている。体が震えて、兵士に掴まれていなかったら、その場に崩れていただろう。
そう、兵士が民間人を盾にしていたのだ。
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