海外

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「ぐわっ!?」  動きを止めたヒデオに銃弾の雨が降る。  数百発の弾丸を防げるはずがなく、体に激しい衝撃が襲う。魔法の防御越しにどんどんダメージが積み上がっていき、黒衣装の装甲が砕けていく。  無数の着弾によって砂が巻き上がり、ヒデオは砂煙に包まれるが、兵士たちは容赦なく、弾を撃ち込み続けている。 「撃ち方やめ!」  しばらくして司令官が号令すると、兵士たちはようやく撃つのをやめた。  撃ち込まれた弾丸の数は、一人を殺すにはあまりに多すぎる。ここにいる人をすべて殺せるだろう。それを受けた者が一人の人間であれば形が残らないほどだ。  皆が注目する中、砂煙と硝煙が晴れる。  だが、そこに死体はなかった。 「なんだと!? どこに行った!?」  周囲を取り囲んで銃撃したから、逃げられるはずがないのだ。  しかしどこを見回しても、ヒデオの姿は見えない。 「俺は甘すぎた。悪党に気遣いなんかしたのが間違いだったよ」  何もない虚空からヒデオの声が響く。  兵士たちはその声がした方向を探し回るが、まったくヒデオの姿を見つけられない。 「鎧を纏わぬ人間は弱い。剣を一刺しすれば死ぬ存在だからと、気を遣いすぎた、正面から向かい合おうとしすぎた。かつての自分ならこんなことしなかった。この世界に来てから優しくなってしまったんだ。……だが、これからは容赦なくやらせてもらう!」  この世界の人間は鎧を着ず、魔法による防御もしない。剣と魔法の異世界に生きたヒデオにしてみれば、赤子の手をひねるも同然だ。そんな存在に無慈悲に当たれるだろうか。しかし赤子と言っても悪党は悪党だった。脆弱な体でも、心は悪魔。モンスターのように殺してしまっても構わないはずだ。  ヒデオがそう言い終わった直後、兵士が血を吹いて倒れた。  敵対者であるヒデオの姿は見えず、何かに切られたとしか言いようがなかった。  そして次々に兵士が見えない攻撃によって倒れていった。 「うわああー!? 助けてくれー!!」  近くにいる兵士たちは、姿の見えないゴーストに逃げ惑う。  しかし姿は見えないが、移動して切りつけているのは、被害者の位置を見れば把握できる。離れた場所にいる兵士たちは、やられた兵士のそばにヒデオがいるとみて、そこに向かって発砲した。  その付近にいた者はたまったものではない。ヒデオも高速で移動することもあって、射線はいろんな方向へ伸び、あちこちで同士討ちが始まってしまう。  種はあまりに簡単だ。身体能力向上魔法と隠密魔法を併用して、相手の認識できない速さで切りつけている。高速移動中は隠密魔法の効果が弱まるが、舞い上がった砂が視界不良を起こし、良いカモフラージュとなっていたのだ。
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