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「くそっ! 化け物め!」
兵士がヒデオのいそうな位置にロケットランチャーの弾頭を撃ち込む。
着弾して爆発が起こる。
「やったか!?」
相手が人間ならば跡形もなく吹き飛ぶ威力だ。
だが爆煙が晴れると、一人の男が姿を現した。
男は全身を分厚い装甲の鎧に身を包み、手には長剣を持っている。現代には似つかわしくない西洋の騎士のようであった。
もちろんそれはヒデオであり、魔王戦のときに使用していた最強装備である。
異世界の技術がふんだんに使われた鎧だ。かなりの重量があり、この世界の人間には着ることもできないだろう。
「撃てー!」
姿を現した敵に再び総攻撃をしかける。
銃弾がヒデオの体に吸い込まれていく。
いや、ヒデオに当たる前に消失し、ヒデオの体には一発も当たっていなかった。
「なんだあいつ……」
弾をすべて討ち尽くした兵士は呆然としてしまい、その言葉しか出なかった。
それでも彼らはヒデオを攻撃し続けるしかない。
ヒデオは銃撃の中、その攻撃をものともせず前進し、次々に兵士をなぎ払っていった。剣を振れば、水を切ったかのように分断されていく。
トラックが駆けつけ、次々に敵の増援が現れる。ヒデオに攻撃を加えていくが、弾を消費するだけで効果はまるで上がっていなかった。
「くそっ!!」
兵士は虎の子のロケットランチャーを放つが、ヒデオはよけることなく、弾頭を軽々と真っ二つに切ってしまう。
「ば、化け物だ……勝てるわけがねえ……」
いったい自分たちは何と戦っているのだろうか。攻撃に当たらない相手。幽霊なのか。兵士たちに動揺が走り、弾を切らして逃げ出す者も現れた。
指揮官が制止するも、絶望的な状況にその声はまったく響かなかった。
「ちくちょう……。おい、止まれ! こいつを撃つぞ!!」
指揮官はヒデオに向かって叫び、女性を盾にして銃を突きつける。
人質。それが彼に残された最後の手段だった。
しかし、今のヒデオにそんな脅しは無意味だった。
次の瞬間には指揮官の両腕が吹き飛んでいた。
「うがああーっ!?」
遠方からの魔法剣による斬撃だ。
指揮官は意志に反して、女性と銃を手放すことになってしまう。
その隙にヒデオは高速で接近し、のたうちまわる指揮官に剣を突きつけた。
「き、貴様……何者だ……」
「異世界からの復讐者。お前らのような悪を誅するために来た」
「悪だと……」
「こうして小さい悪を一つずつ刈り取り、いつかは滅ぼしてやる」
「悪魔め……! 世界を一人で支配するつもりか! ……それに悪が滅びるものか。世はそんな単純なものではないぞ!!」
「黙れ」
そこでヒデオは指揮官にとどめを刺した。
悪党はこうして負け惜しみを言う。それをいちいち聞く必要はない。
「悪魔、か……。この世界では俺が魔王ということだな」
奇妙な縁でつながったこの世界のためにできること。ダークヒーローとなって悪を討つつもりだった。しかしそれは、この世界に人から見れば、力によって作り変えようとしている独裁者、魔王に映るに違いない。
指揮官に捕まっていた女性は興味のあまり、座り込んだまま動けなくなっている。青い顔でヒデオの顔を見上げることしかできなかった。
震える口からは言葉は出てこないが、「殺さないで」と訴えているのはよく分かった。
「邪魔したな」
ヒデオはボイスレコーダーと、この国のわずかな紙幣を落とした。
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