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魔法
希海は困惑した。
自分がこの世界の人間ではない。そう聞かされたとき、意味がまったく分からなかった。
まず、この世界以外に世界があるのかということ。そして、自分が他の世界の人間だとして、両親とはどういう関係なのだろうかと、希海は考えた。
両親から生まれたのではなく、どこかで拾ってきた子供なのか? だから父は自分に厳しかったのか? そんな子供のために母、そして義父は命を落とすことになったのか?
もっと事情を知りたかったが、ここから先は秘密保持契約を結んだ上、防衛省内でしか話せないと久間田に言われた。
「実は、あなた宇宙人なんです。それがどういうことか教えてあげたいんですが、これにサインしてからじゃないと教えられないんです」といった怪しい宗教の勧誘を受けているようだった。
普通だったら有無を言わず追い出していただろう。しかし、ディフェンジャーの映像を見させられては、その情報も根拠なしに話しているわけではないと思えた。防衛省から来たというのもウソではないのだろう。
明らかに普通の精神状態ではなかった。両親を殺したにっくきディフェンジャーの情報、そして自分の出自。今の希海には少しでも知りたいことであった。希海はサインしてしまう。
(もう失うものなんてないから……)
久間田がスマホを取り出して電話をすると、黒塗りの車が家の前に止まった。
それで防衛省の庁舎に連れて来られ、厳重にセキュリティ装置が張り巡らされた区画へと案内された。
希海は未知の体験に終始どきどきしっぱなしだった。
「聞きたいことがあれば、分かる範囲で答えます」
久間田が言う。誠実な物言いだ。
そこは小さい部屋で、久間田の他にも防衛省の職員が何人か同席している。スーツ姿の人もいれば、白衣の人もいた。
「まず……。異世界は存在するんですか?」
根本の問題として、これを聞かずにはいられなかった。
「分かりません」
「へ?」
久間田の即答にあっけにとられてしまう。
「ど、どういうことですか? あたしがこの世界の人じゃないって言いましたよね?」
「はい、この世界の人間ではない可能性が高いと判断されました。しかし、異世界があるかは確定された事実ではないのです」
「よく分からないんですけど……」
「あなたはこの世界の人間とは異なる性質を持っています。しかし、それが異世界の存在する証明にはならないということです。実際に異世界を目にした者はいません」
「はあ……」
久間田の言う意味は分かったが、釈然としなかった。自分は人間ではない、化け物だと言われているように聞こえたからだ。
「あたしがおかしいってことですか?」
「そういうことになります」
久間田は冗談を言うタイプには見えなかった。おそらく悪意はなく、そのままの意味なのだろう。
しかしやはり不愉快なことには変わりなく、希海は眉を引きつらせ、トゲのある言い方をしてしまう。
「おかしいってどの変がですか? どう考えても普通の人間だと思いますよ」
「ビルが倒壊して生きているのが普通ですか?」
「え……」
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