21人が本棚に入れています
本棚に追加
希海はなんとも言えない気持ちになる。
久間田の言い方には腹が立つが、その意味は理解できる。福永スカイタワーの倒壊事件では、両親や大勢の人が亡くなったのに、希海はほとんどケガもなく救出されていた。
「この世に神の加護というものが存在しないのであれば、あなたは特別な人間と言えます」
「そうなんですかね……」
何度もいろんな人に「神様が助けてくれたのね」と言われたが、正直信じていなかった。しかし、それで自分の力があるから助かったというのは考えたこともなかった。
「よく分からないんですが、どんな力があれば助かるんですか?」
久間田は口を開いて何か言おうとしたが閉じた。そして大きく呼吸をしてから言う。
「……本来ならば、私の立場でこんな言葉を使うべきではないのですが」
「はい」
「……『魔法』の力で、あなたは助かったと言えるのです」
「魔法?」
希海はぽかんとしてしまう。
生真面目な久間田が言う単語だとは思わなかった。
「魔法ってあの、空飛んだり、火出したりとかのですか?」
「はい、その魔法です」
「あはは、冗談ですか? 魔法なんて使えませんよ。そんなのができたら毎日使ってますって、それに……」
魔法が使えていたら、まず両親を助けている。そういう不思議な力を使えないから両親は死んだのだ。
「はーい。魔法については僕から話すよ」
白衣の男が小さく手を挙げていた。
「僕はショーン・ローレン。アメリカで魔法の研究をしている」
「アメリカ……?」
小柄な白人男性で人なつっこい顔をしている。年齢は40歳ぐらいだろうか。
アメリカは科学の最先端を研究しているイメージで、魔法を研究しているとはびっくりする。そして、どうして日本の自衛隊にアメリカの人間がいるのか疑問だった。
「そう。君のためにはるばるアメリカから来たんだ」
「はあ」
「まあ、僕のことはどうでもいいんだ。それよりも君のことだよ。君は無自覚なのかもしれないが、あの倒壊するビルの中で魔法を使ったんだ。救出した消防士の話では、君の周りだけが瓦礫が切り取られたようにぽっかりと空間ができていたという。実際、調査で現場を掘り起こしてみたが、切り取られたような瓦礫が見つかったよ」
ペラペラとハイテンションで話し続けるため、希海は面食らってしまう。話している内容も頭に入ってこなかった。
「ど、どういうことですか……?」
「君は魔法を使って不思議な空間を作り出し、押し迫る瓦礫を削り取って、安全地帯にいたから助かったんだ!」
「はあ……」
「信じてないみたいだね?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……」
魔法で自分の身を守ったということだが、信じろというほうが無理がある。
「うーん、そうだね。こう言えば興味を持ってもらえるかなあ。あのディフェンジャーという人物、あの男も魔法を使ったんだ」
「ディフェンジャーが魔法を!?」
「お、食いついたね。あの爆発を爆弾だと思っていたかい? 一人の男がフロアをまるごと吹き飛ばせる量の爆弾を持ち込めるはずもないし、用意することもできない。そもそも爆発物の痕跡がまるでなかったんだ」
「それで魔法を使ったと?」
「そう! 僕が作った特製の魔法検知器がすごい反応を示したんだ。これまでいろんなところでテストしてきたけど、これほど強い反応を示したことがない!」
ディフェンジャーが魔法を使った。久間田にディフェンジャーが人間離れした動きで敵を倒していく映像を見させられた。それまでにも、多くの暗殺事件を起こしているが、進入不可能な場所に入り込み、何一つ痕跡を残さぬまま立ち去っていた。それを説明するのに、魔法という言葉はなんて便利だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!