現代転移

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現代転移

「うっ……」  ヒデオは強い光を感じていた。  まぶしくてじっとしていられない。たまらず手で顔を覆う。  体はその通りに動いた。 「あれ……俺は死んだはずじゃ……?」  目は開き、体を起こすこともできた。  じゃっかん体がふらつくが、特に異常はなく、急に起き上がった反動だった。 「ここは……。は? ウソだろ……」  ヒデオは唖然とした。  目の前には見知った風景が広がっていたのだ。  とても懐かしい風景だった。  それは18年ぶりに目にした新宿の風景であった。 「戻って来た、というのか……?」  周囲には、見慣れた高層ビルが建ち並んでいる。今いるのはどこかのビルの屋上のようだった。  ここが異世界ではなく、ヒデオがはじめに生まれた世界であることは明白だった。  しかし、体は異世界で過ごした若い18才のものだ。  魔王戦で損傷した鎧を着ている。異世界特有のドラゴンから作られたもので、自然界において最強クラスの強度を持っていた。 「転生ではなく転移、ということか……」  現代から異世界に渡ったときは別の体を手に入れたが、今回はその体のまま現代に戻って来たようだった。 「魔法は使えるみたいだな」  飛翔魔法を使うと、体がふわっと浮き上がる。体内に魔力を感じられ、他の魔法も問題なく使えそうだった。  突然、鎧が消えて、服装が異世界で着ていた普段着になる。 「……この服じゃ目立つよな。隠密魔法を使っておくか」  そう言うとヒデオはビルの屋上から跳躍すると、新宿の町へと降り立った。  異世界の体のままで魔法も使えるとなると、本当にここが自分のいた現代なのか確かめる必要があった。  自分の存在を相手に認識させなくする魔法を使って、ヒデオを知っていた通り、いつも人だらけの新宿を歩いた。  魔法はちゃんと効いていて、誰もヒデオの姿に気を止めたりしない。  電気屋には見慣れたテレビやスマートフォンが並んでいる。文化レベルはヒデオが知っている時代のものと変わらないようだ。18年ぶりに見ると懐かしく思えるが。 「おいおい、ウソだろ……」  ディスプレイされているスマートフォンを操作してカレンダーを確認すると、今日は2023年の6月23日だった。  ヒデオが驚くのも無理はない。それはヒデオがこの世を去ってから数日しか経過していなかったのだ。  ヒデオは死んでから異世界に転生し、それから18年生きているのだ。少なくともそれぐらいは経過していると思っていた。  ということは、ヒデオの家族や知り合いはまだこの世界で生活しているはずだ。  ヒデオはひどいめまいがした。 「やめてくれよ……。冗談はもううんざりだ……」  異世界に転生しただけでも、冗談のようなものなのに、また生きながらえて現代に戻ってくるのは、ヒデオにとって受け入れがたかった。  ヒデオはこの現代をひどく嫌っていた。  度重なる不運と不幸に襲われ、次第に追い詰められていき、自ら命を絶つことになったからだ。
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