災害

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災害

 「ただいま高層フロアにおいて、火災が発生しました」  けたたましい警報音が鳴り響き、それに続いて館内放送が流れた。 「火事?」  希海は両親と買い物をしていた。  福永スカイタワーの低層階はショッピングモールになっている。様々な種類のお店が軒を連ねていて、まとめ買いにはちょうどよかった。 「現在、消火に当たっており、直ちに危険はございませんが、係員の誘導に従って避難を開始してください。エレベーターは使用できません。非常階段をご利用ください」  館内放送の続報が流れ、周囲の人々は不安な顔をしてざわめきが起きた。 「大丈夫なのか?」 「おいおい、勘弁してくれよ」 「出たほうがいいのか?」  買い物客は事態が飲み込めず、慌てることはなかったが、足を止めて次の指示を待とうとしていた。  しかし次の瞬間、轟音とともに地面が揺れた。  その衝撃はすさまじく、立っていらないほどだった。 「地震!?」  一度大きな衝撃が来て、ゆらゆらと揺れているような感覚があった。  これにはまずいと思ったのか、買い物客は非常階段のほうへ歩き出した。 「大丈夫なのかな……?」 「とにかく避難しよう」  この状況には、希海もだんだん不安になってくる。義父は冷静を保って、希海と母を非常階段のほうへ誘導する。  揺れは大きくなかったが、ミシミシと建物が軋む音がして、非常に不気味だった。  買い物客たちはゆっくり移動していたが、今では走り出した者も増えていた。 「走らないでくださーい!」 「落ち着いて避難してくださーい!」  店員はマニュアルに従って呼びかけを行うが、一度動き出した人の波は止められなかった。  転ぶ者がいたり押し倒されたりする者が続出する。  怒号も飛び交い、自分たちは今、災害の中にいるのだと皆、認識せざるを得なかった。  しかし、皆が出よう出ようとするほど、出口に人が殺到し動けなくなってしまう。階段は人で埋まり、進むことも戻ることもできなかった。 「何なのよ……」  希海たちはその行列に並ぼうとしたが、今では諦めて少し離れたところでその様子を見守っていた。
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