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理由と出会い
「さぁ、そろそろ授業を始めないとな」
25階の僕の部屋では早速ドラキュラの授業が始まるらしいが、しかし…
さっき死んだばかりの僕は、もちろんそんな気にはなれない。ましてや訳の分からんドラキュラと2度もチューしてしまい、今すぐこいつを追い出したい気分なのに、何が授業だ!
それに一つ聞いておきたいことがあった。
「あのー、授業の前に一応聞いておきたいのですが」
「何だね?サインは後にしてくれたまえよ」
「いらないですよ!何でドラキュラが家庭教師なんかやってるんですかってことですよ」
ドラキュラは間髪入れずに答えた。
「やりたかったからに決まっているではないか!それ以外何があるのだ?」
くそっ!こいつに言われると何かイラつく…けどまぁそうなんだけどね!
「あれは私がまだドラキュラになりたての頃、そぉ遠い昔のはなしだ」
何か語り出したんですけど。
「私は陽の光を浴びられない、そしてニンニクや十字架という弱点ある。そんなストレスを抱えていた私は、そのストレスを発散するかのように毎晩のように人を襲っては血を吸い、襲っては吸い吸いしていた」
「吸い吸い?」
「そう、毎晩のようにね。そんな時だった彼女に出会ったのは…」
急に真面目な顔になったドラキュラは、さらに語りだした。彼女とは一体?
「日頃のストレスに耐えきれなくなった私は気がついたのだ。弱点は克服してしまえば良いのだと」
「確かに」
「まずは日焼け止めをつけ少しずつ太陽に皮膚を慣れさせ、慣れてきたら毎日ヒサロに通い、昼間に浜辺では日光浴」
「それから?」
「クロムハーツなる十字架を買いあさっては身に付けた」
「それからそれから?」
「毎日三食コテコテのニンニクたっぷりじろうけい二郎系ラーメンを食べ続けたのだ」
「なるほど」
「あれは本当に辛い日々だった」
「頑張ったんだねぇって、違うだろ!むしろ羨ましい日々の数々!それと彼女どこ行った!?」
本当に調子が狂う。僕はこんなツッコミキャラじゃないのに。こんなのツッコまざるを得ないじゃないか!
「いやこれからが本題なのだが」
「そうですか!どうぞ!」
僕はなげやりに言った。
「全てを克服した私は、兼ねてから行ってみたかった日本に行くことにしたのだ。そこで出会ったのが…」
「彼女ですね?」
「まぁ待ちなさいよ、急かさないで本当せっかちさんなのだから」
本当ムカつきますな。
「まぁそうなのだが、正確には引きこもりの彼女だ」
引きこもり?
「その当時も日本ではそのヒキコモリというものが大流行していてね、彼女もその一人だった」
僕もだ。
「聞けば毎日家から出ずに、部屋にずっといるというではないか。せっかく陽を浴びても大丈夫なのに、いつでも外へ出られるのに。自由なのに」
自由ねぇ。
「しかもその当時日本に来たばかりで、ヒキコモリをヒキコウモリだと勘違いして、これは放っておけないと思ってしまったのだよ!」
「え?じゃあ勘違いで家庭教師に?」
「まぁそぉとも言う~、でもその時はそんなコウモリがいるなら、ドラキュラの私が救うべきだと思ってしまったのだから仕方ないだろう?思い付いたら即行動が私のモットーなのだから」
それを聞いて僕は初めて彼が羨ましいと思った。
僕にはないその決断力、そして苦手を克服しようと立ち向かう勇気。どちらにおいても僕には欠けている部分だった。
「そういうことだから、今日はゲストとして彼女を連れて来ています」
「そういうことってどういうこと?ちょっとなに勝手に連れて来てるんですか!」
「まぁまぁ固いこと言わずに。『固いのは下だけにして、頭は柔らかく』が私のモットーだから。それにもう来ちゃってるのだから、今さら追い返せないしね」
下ネタかよ!そう叫ぼうとした時、僕の部屋の扉が開きそこに一人の女の子が立っていた。
僕は下ネタかよ!なんてすっかり忘れるほどの衝撃とともに、彼女から目が離せなくなった。
彼女はとてつもなくかわいい娘だったのだ。
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